第41話 正体

ーーデイイーアの公園 地下水道ーー



俺は呪術士ジャミガを一撃で吹っ飛ばした。

壁にめり込んだ奴は、口から血を流し、不気味に笑う。


「へ……へへへ……。タケル・ゼウサード。やっぱり強ええな」


戦士ゴリゴスは空いた口が塞がらない。


「お……おいどんの攻撃を片手で受け止めるジャミガを……。い、一撃で……」


俺は眉を寄せた。


「まだわからないことがあってな……。軽い攻撃しかしていないんだ」


「か……軽い攻撃!? お、おいどんにはとてつもなく重い一撃に見えたでごんすが……?」


まぁ、普通の人間ならば、これで再起不能だろう。

しかし、ジャミガは笑っている……。


奴は壁から抜け出すと俺の前に立った。


「タケル・ゼウサード……。お前一体何者だ?」


「さっきも言っただろう。俺はスタッド王国の城兵だ」


「隠している正体を聞いているのだ」


「……………………」


場は沈黙する。

俺は軽く嘆息。




「俺は闘神 アーレスディウスに選ばれた人間だ。闘神の体に変化するスキルを使うことができる」




場は固まる。

この真実に驚きを隠せないようだ。


グレンは震えていた。


「と、闘神の力だとぉおお……!」


しかし、今までの出来事が全てを物語っているのだろう。

みんなはただ汗を流し、固唾を飲んで見守っていた。

ジャミガは震える。



「と……闘神だとぉ……? 神の体に変化できるだとぉ……? ふ……ふはは…………。そ、そんな人間がいるなんてな……」


「俺だって自分がなぜこんな力を持っているのかよくわかっていないんだ」



ジャミガは俺を睨みつけると、身体を徐々に大きくした。

目も口も3倍以上に膨れ上がり、その姿は人間ではなくなっていた。


「危険だな……。そんな人間がいるなんて……」


奴は大きな顔にたくさんの触手をうねらす不気味は怪物へと変貌した。

まるでタコの化け物である。

そのおぞましい姿にみんなは震えた。

奴は俺の存在が許せない。

大きな口から放たれた怒号が地下水道に轟く。



「ゔぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」



周囲は揺れ、ブルブルと震えた。


「うるさいな……」


俺は目を細めた。

リリーはあまりの恐怖に涙する。



「タ、タケルさん!」


「大丈夫だ。リリーは回復を続けろ」



ジャミガは大きな声を張り上げた。



「俺は魔王軍四天王の1人、呪術士ジャミガ!!」



やれやれ、そういうことか……。

これで奴の強さが理解できた。

四天王といえば噂でしか聞いたことがないが、たった1人で王国を滅亡させる力を持っているらしい。


俺が鼻でため息をついていると、一同は汗を流して震えていた。

勇者グレンは腹部の治療が完治するまでもなく声を出した。


「ま、魔王軍四天王だとぉ〜〜!!」


ジャミガは勝機を見出したように笑う。




「ふははは! これが俺の本来の姿よ! こうなれば以前の10倍の強さがあるのだ!!」




ゴリゴスは青ざめる。

以前の姿で自分の攻撃が全く通じなかったことを思い返したのだ。


「こ、これは相手が悪いでごんす! タ、タケルどん! お、おいどんも闘うでごんすよ!!」


ここで、逃げると言わないのが、この男の良い所だな。


「いや、大丈夫だ。他のメンバーの防御を頼む」


「え!? いや……し、しかしでごんすな!?」


ゴリゴスに何かあればリリーの仕事が増えてしまうからな。


それでも彼の心配する気持ちは拭えないようだった。


「し、死ぬ時はおいどんも一緒でごんすよ!」


ふふふ……。

こいつは本当に優しい奴だな。


「タ、タケルどんがいくら闘神に選ばれた人間でも相手は四天王でごんす! 1人でやるなんて無茶でごんすよ!!」


少し、安心させてやろう。


「ゴリゴス、問題だ。人間は1秒間に何発の打撃が打てるか知っているか?」


「え……? いや……。うーーん。おいどんだったら2、3発程度かのう?」


「練習すれば普通の人間でもな、1秒間に9発程度は可能なんだ」


「おお、凄いのう! って今、そんな話、関係ないでごんすよ!」


「まぁ聞けよ。9発の内訳はこうだ。まずは右の拳で1発当てる、そのままその右腕の肘で1発、そして戻り際に裏拳を1発。右の腕の、振り、戻り、だけで合計3発打てるんだ」


「ふ……ふむ。興味深いでごんすな」


「次は左腕の攻撃だが、右の腕を引いた時に右と同じ攻撃を仕掛ける。これで左3発。右と合わせて6発打てる。1秒以内なら、もう一度、右の攻撃が打てるから合計9発になるという訳だ」


「なるほどのう……。で、何が言いたいんでごんすか?」


眼前のジャミガはタコにような触手をうねらせた。



「タケル! 何をごちゃごちゃと話してやがる!! 貴様を呪い殺してやるぞ!!」



おっと、みんなに攻撃が向いたら大変だ。


俺はすぐ様、前に出た。

そこに触手の攻撃が来る。


「よっと」


側面の壁に移動。

しかし、間髪入れず触手の連撃。


「よっ! はっ! とっ!」


触手は全て空を切る。

俺はゴリゴスの前に着地した。


「話の続きだ」


ゴリゴスは一連の動きが見えておらず、急に目の前に現れた俺に驚く。


「タ、タケルどん!」


「俺が1秒間に何発の打撃が打てるのかって話だ」


「え!?」


俺は首を左右に傾けて凝りをほぐす。


「スキル闘神化アレスマキナ 神 腕」


その両腕は真っ赤なオーラに覆われた。



「俺はな——」



笑う。





「1秒間に900発打てる」






ゴリゴスが聞き返すより速く、俺はジャミガの眼前に移動していた。




連撃。




それは一瞬の出来事。

複数の打撃音は重なり、あまりの速さに個の音が音速を超え1発の大きな音へと昇華した。







ド    パ    ン   !






ジャミガの巨体は5メートル吹っ飛んだ。



「やれやれ、流石は四天王だな。並のモンスターなら50メートルは吹っ飛ばせたんだがな」



「タケルどん!! 凄いでごんすぅぅぅうううううううううううううううう!!」

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