第35話 苦笑 【ウットイ兵士長ざまぁ回】

ーーワカツ平原ーー


俺達はタケルに助けられた。

彼には負傷者を助けろと言われたが、とても集中できそうにない。

土砂で埋もれた城兵を発見して、救出を試みながらも、視線はタケルに集中していた。


「ヒャァァアッ!! た、たす、助けてくれぇええ!!」


大きな悲鳴を上げたのは、ウットイ兵士長であった。

その下半身は土で埋もれ抜け出せず、身動きができない。

彼の前にはジェネラルワーウルフが立ち塞がる。

大きな槍を掲げて狙いを定めていた。

そのまま、振り下ろす。



ザグンッ!!



槍の一投はウットイ兵士長に直撃。

槍先は大木のような太さである。

食らえば身体はこっぱ微塵。肉片と化す。

しかし、その槍は彼の手前で止まっていた。

兵士長はボロボロと涙を流し、口からは涎を垂らしていた。

ジェネラルワーウルフが唸り声を上げる。


「ヴヴゥッ!!」


大きな腕は震えたまま動かない。

その腕を押さえていたのはタケルだった。


俺は負傷者を助けながらも叫んだ。


「す、凄い!」


ジェネラルワーウルフは、タケルの殺気に恐れを成して槍から手を離した。

魔法で生成された槍はその効力を失って岩土へと還る。

それを見た兵士長はタケルに近寄った。


「タケル! お前が何故ここに来たのだ!? もしかしてラッキーか!? お前の運でなんとかなったということか!?」


ジェネラルワーウルフは両手を大地に向けた。

すると岩土が、その手に吸い込まれるように舞い上がる。

それは形を成していき、やがて大きな斧と化した。岩土の斧である。


ウットイ兵士長は彼に泣きすがる。


「おいタケル! どうしよう!? お前のラッキーでなんとかならんのか!?」


タケルは目を細めた。


「やれやれ……」


ジェネラルワーウルフは斧を振り下ろす。


ゴゥウウッ!!


凄まじい風切り音。

空間を切断するような一閃。

死を覚悟したウットイ兵士長は涙を流して叫んだ。



「アギャァァァアッ!!」



タケルは、そんな兵士長の裏えり首を掴んで、高速移動をする。

その速さに悲鳴が上がる。


「ひぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!」


俺達の時と同じだ。

タケルは凄い速さとパワーを持っているんだ!


気がつけばバルバ伍長の元へと移動していた。

着地と同時にウットイ兵士長は舌を噛んでいた。



「はぎゃッ!!」



バルバ伍長は目を見張る。


「タ、タケルか!?」


周囲にはノーマルワーウルフが5、6体。


タケルは呆れた。


「やれやれ、群れると厄介だ。落ち着いて会話もできない」


彼は面倒くさそうに地を蹴った。

そこからは俺には確認することができなかった。

なにせ速すぎて見えないのだ。

打撃音だけが響く。



パン! バギ! ゴン、ドドドン!



それは瞬きするほどの時間。

ワーウルフ達はそれぞれが体勢を崩していた。

タケルは再びバルバ伍長の横に立つ。

彼女の美しい銀髪が、タケルの移動で巻き起こった風を受けてなびく。

その髪の揺れが、ほんの少し落ち着くと、バタバタと音を出してワーウルフ達が地に伏せた。

はっとしたバルバ伍長は、横にいるタケルに気がつく。


「お、お前が、やったのか!?」


バルバ伍長は彼がノーマルワーウルフを倒したことに驚きを隠せない。


「タケル……。やはりお前は私が見込んでいたとおり、相当なやり手であったか! 私はなんとなく気がついていたぞ!!」


「フフ……。そんなことより厄介な敵が控えていますよ」


「うむ、お前の強さがあれば、なんとか逃げきれるやもしれんな! みんなの安全が最優先だ!」


バルバ伍長は、タケルの強さを知っても、尚、命の危険を感じていた。

汗を滝のように流す。

そんな傍ら、タケルは飄々とした態度を見せた。


「バルバ伍長。あのジェネラルワーウルフ……強いですよ」


そう言って前に立った。

ドシンドシンと地響きが、辺り一面に鳴り響く。

それはジェネラルワーウルフがタケルの元へと突進する音。

タケルは後ろを振り向いたままバルバ伍長の顔を見て呑気に笑っていた。


いかん! タケルの奴、気づいていないのか!?


そう思ったのはバルバ伍長も同じだった。2人の声は重なる。


「「 後ろだ! タケル!! 」」


しかし、遅かった。

その言葉より速く、ジェネラルワーウルフの斧はタケルを襲っていた。


ああ、よそ見をしているところを攻撃されるなんて、なんたる失態。

腕に溺れたかタケル。

お前には礼も言ってなかったんだぞ!

くそッ! 死にやがって!


俺はやるせない想いをぶつけるように叫んだ。


「馬鹿野郎タケルッ!!」


「それは酷い言い草だな」


「え!?」


タケルは後ろを向きながらも、片手でジェネラルワーウルフの斧を掴んでいた。


呑気に笑う。


「少し強いからな。キャプテンの時みたいに隠れて攻撃できないんだ」


バルバ伍長は震えた。


「う、後ろ! 後ろにジェネラルが!」


タケル満面の笑み。


「ええ、大丈夫。今、倒しますから」


その瞬間、岩土の斧はこっぱ微塵に大破。


ドパァァァアアアアン!!


スッと飛び上がったタケルは側頭部目掛けて回し蹴りの一撃。



「スキル闘神化アレスマキナ 神空脚」




ドグワシャァァ!!




そのまま側頭部の骨を砕き、頭部ごと引きちぎった。

首から離れた頭部は10メートル先にぶっ飛んだ。

残された胴体は、そのまま地面に倒れこむ。



ズシーーーーン……!!



舞い上がる砂煙を背にして、微笑むタケル。


「バルバ伍長、怪我は無いですか?」


伍長は俺と同じように、笑うしかなかった。


「は……ははは……凄いな」

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