第6話 闘うことは美しい

氷は溶け、川はいつもの流れに戻っていた。

通行人はさきほどの現象を信じられないように首を傾げる。

一連の流れに、俺達に注目する人間もいた。


こう騒つくと話しにくいな。


「少し移動するか……」


スキル闘神化アレスマキナ、神速を使って彼女を抱きかかえて移動。

少し離れた川のほとりにあるベンチにたどり着く。

驚く彼女を下ろし、声をかける。


「少し休もう」


ベンチに腰掛ける2人。

彼女は涙を拭き、少し笑顔を見せた。


「……なんだか、あなたは凄い人ですね」


「そうかな……? フ……しがない城兵だがな」


「城兵? そんな凄い力を持っているのにですか?」


「ああ、だからそんな凄い人じゃないさ」


「……不思議な人」


「そうかな? フフフ……。変わってて面白いだろ?」


俺の笑顔に答えるように彼女も笑う。


「「……………………」」


しばらく沈黙。

俺は、のんびりと川の流れに目をやっていた。

彼女はゆっくりと口を開く。


「私……。自分の力で役に立ちたかったんです……」


「役に立つ?」


「この街に、邪悪な呪術士が潜む情報がありました。そいつは街人を呪って楽しんでいるというのです」


「それは厄介だな」


「それで、私は従者を連れて、そいつを捕まえようとしたのですが……」


従者……? 上質な服の見た目といい、彼女はどこかの貴族の娘なのだろうか? 

しかし、今は話を聞いてあげよう。


俺は彼女を見つめ、うなずいた。


「うむ」


「……返り討ちにあってしまいました。私達は呪いをかけられてしまったのです。私は凍りつく呪い。2人の従者はネズミに変えられてしまったのです」


「なるほど、橋の上が凍ったのは呪いのせいか」


「はい……。気持ちが高まると発現してしまうのです。うう……」


彼女は目に涙を浮かべると、息は白くなり、涙は雹となった。

俺は灼熱血行を発動させながら優しく肩に手を置く。


「落ち着け。俺がついている」


彼女は泣きながらも、俺の手を握りしめた。

その手はブルブルと震える。


「ありがとうございます……。ネズミになった2人の従者は、私の元を離れてどこかへ行ってしまいました。もしかしたら猫に食べられてしまったかもしれません。私は無作為に周りを凍らせてしまいますし、もうどうしたら良いか……。う、うう……。やはり私は何もできない情け無い人間なのです。うう……」


「そんなことはない。女の身でありながら、勇敢にも呪術士と戦うことを選んだのだろう? お前は立派な人間だ。ネズミになった従者はこれから探せば良い。大丈夫! きっと見つかるはずだ!」


彼女にとって、俺の言葉は希望に満ち溢れていたようだ。

暗く閉ざされた未来に光明が刺したのだろう。涙する顔に笑みを見せた。

彼女は俺の胸に顔を埋める。



「ありがとうございます! ああ! ありがとう! ううう……」



俺は彼女が落ち着くまで、何も言わず胸を貸してあげるのだった。




◇◇◇◇




しばらくすると、彼女は落ち着きを取り戻した。

わずかながら笑みを見せる。


「ありがとうございます。気持ちが落ちつきました」


その微笑みは、なんとも心が和む。

これが本来の彼女なのだろう。


「私の名前はマーリア・ママジャンと申します。どうかあなた様のお名前をお教えください」


ママジャンといえば、王国の名前だが?


「俺はタケル・ゼウサード。スタット王国の城兵をしている。訳あって、今は1人旅だ」


「タケル様。あなたになら全てを打ち明けられそうです。私はママジャン王国の姫なのです」


「やはりそうか。姫が呪術士逮捕とは中々過激だな。ママジャン王には内緒の行動と見たが?」


「ええ、父には話していません。あの人は大きなお金が動く内政にしか興味がありませんから。呪術士が起こすちっぽけな事件など見向きもしないのです」


「それで立ち上がったのか。中々、正義感が強いな」


「でも……。お恥ずかしい。返り討ちにあってしまいました……」


俺は彼女を賞賛するように微笑んだ。




「闘うことは美しい」




彼女は眉を上げる。


「え?」


「嫌いじゃないよ。そういう行動」


マーリアは真っ赤に頬を染めた。


「か、からかわないでください!」


「ハハハ。本心だ」


俺は立ち上がる。

不審な音に耳を澄ました。


「どうされたのですか?」


「マーリアを応援する」


俺は片手を差し出した。


「え? なんのことです」


手を取るマーリア。

俺は彼女を引き寄せた。


「きゃっ!」


「その呪術士を捕まえよう!」


「あ、えーと、これから探すのですか?」


抱きしめられたマーリアは、その顔を更に赤くして困惑した。


「し、しかしですね。探すと言ってもこの街の人口は10万人もいて、とても見つけられないのです!」


俺は笑う。


「もう見つけたよ」


「え? きゃっ!!」


同時にマーリアをお姫様抱っこ。



「スキル闘神化アレスマキナ、神 速!」



高速移動。


「きゃああああああああああああ!」


「安心しろ。もうすぐ着く」


向かうは街の中心にある時計台。

その高さ約50メートル。

てっぺんには大きな鐘が付いている。

その横に望遠鏡を覗き込む、黒ずくめの男がいた。


「なんだ?」


男は、望遠鏡の視界から見える一連の出来事を理解できないでいた。


スキル闘神化アレスマキナ 神眼の力で男の様子がハッキリと見える。

男はスーツを着ており、その生地の縫い目まで確認できた。

俺は神速移動状態で次のスキルへと移る。


「飛ぶから捕まって! スキル闘神化アレスマキナ 飛翔!」


マーリア絶叫。



「キャアアアアアーーーー!!」



ストンと着地。


目を開ければ、そこは時計台の天辺。

眼前には男が1人。

男は混乱する。


「え? え? なんで??」


俺は不敵に笑う。


「お前……。その望遠鏡を通して、ずっと俺達を見ていたな?」


「なんだと!?」


「マーリアが呪いで苦しみ泣くのを、ほくそ笑んで見ていただろう」


「んぐッ!!」


男は驚愕のあまり下唇を噛んだ。

マーリアは俺の言葉に息を呑む。

俺は男を睨みつけた。




「お前が呪術士だ」

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