気のみ気のままのアマチュアさん
古博かん
ep.01 ペンネームのこと
ペンネーム。
プロアマ問わず、モノを書いて発表する上で欠かせないもの——それが、いわゆるペンネームだけれども、私の場合、漢字・読み仮名含め、割と安直に決めてしまったツケが、今、来ていると思う。
というのも、私の筆名を『古博かん』というのだけれど、どれだけの方が、この名前を正しく読めるかというと、ほぼゼロだろう。
古博かん。
多くの方が、「こはくかん」と読むのではないだろうか。
実は、当初の思惑では「こひろかん」と読むはずだった。
なぜ、こんなことになったのか。それは、私の大学時代まで遡る。
執筆自体は、(趣味の範囲に限るが)十代の頃から地道に続けており、どの作品についても「作者不詳」状態だった。正直、書くこと自体が楽しかったので、作者の名前など、大して深く考えたこともなかった。ただ、書きたいものを書きたいだけ書き散らしていたのである。
しかし、大学で文芸部に所属したことをきっかけに、そうも言っていられなくなった。作品と一緒に、ペンネームも提出してと言われたからだ。
さて、どうしよう。
「まあ、要するに、誰が書いたか分かればいいんだな」
それくらいしか考えていなかったものだから、半ば必然的に、あだ名から派生することになる。
私のあだ名は「かんちゃん」という。
十代の頃から、文芸部に関係のない先輩も私のことを「かんちゃん」と呼び、後輩からは「かんちゃん先輩」と呼ばれ、果ては、お世話になっていた先生方からも「あ、かんちゃん。ちょっと手伝って」などと、フランクに浸透した公式名称だったのである。
そんなわけで、「かん」を使用することにした。まあ、これだけでもいいか、くらいの感覚だったのだが、せっかく文芸部でお披露目するのだから、もうちょっとカマシてやりたいと思った。
そこで、「かん」が派生した元の名前「ひろこ」をもじることにした。
ひろこ。ろひこ。ひころ。ころひ。ろこひ。こひろ。
すると、「こひろ」が一番ゴロが良かった。それが、元々の読み方「こひろかん」の始まりである。そして、この後、私は最大の適当を発揮してしまう。
「全部ひらがなって、なんか締まらないなあ」
そんなことを考えた私は、「こひろ」に適当な漢字を当てはめることにしたのだが、問題はそのやり方だった。
当時、私の使用していたパソコンのOSは、ウィンドウズ’98という、今の若い方には「はあ?」と思うようなシロモノである。
マイクロソフトワードも98を使用していた。
私は、「こひろ」の変換を、このマイクロソフトワード98に委ね、挙句、キーボード「矢印キー」ルーレットを決行したのである。
今ほど賢くない当時のワードの変換機能は、「こ」と「ひろ」を勝手に別けて候補を上げてしまった。そして、私の右手の中指が気まぐれにルーレットした結果、「古」が画面上に現れた。
同じように「ひろ」を変換したところ、「博」が出てきたというのが顛末である。
この時の私の感想は、「わー。なんか、博識っぽくて考古学的な感じ——」という、いい加減極まりないものだった。
そして、「こひろかん」が「古博かん」になり、結果「こはくかん」と認識されるという悲劇が起きた。しかし、それでも私は「まあ、いっか」くらいにしか考えていなかったのである。
否、
先日、「古博」の読み方の可能性を調べてみたのだが、結果は散々だった。ネット検索で唯一引っ掛かった実在の人物——それは
さすがに、「こはっ」と読むわけにもいくまい。何かを誤飲して、吐き出そうとしている擬音か何かにしか、ならないだろう。
次に試してみたのが、姓名判断である。
いくら適当に決めてしまった筆名とはいえ、大学時代からの長ぁ〜いお付き合い。吉凶くらいは知っておきたいものだ。そんな考えから試してみたのだが、まあ見てほしい。
天格十七画で『吉』。ほう、悪くない。
人格十五画で『大吉』。ほうほう、素晴らしい。
地格五画で『吉』。良いじゃないか。
外格七画で『吉』。ここまで来れば、有頂天である。
残る総画は、二十二画で『凶』。大成し難い器用貧乏。
上げるだけ上げて、ここで落としてきたか、という感じだ。それはもう、盛大にずっこけた。
補足情報として、三才配置は金・土・土で『大吉』。
陰陽配列は『陽・陰・陽・陰』でバランスの良い配列。
名前の響きは五行の『木』で、向上しようという強い意志を持った人と出た。
まさに、器用貧乏。
ここまで出揃って、唯一の総画で凶を出す奇跡。凄いな、マイクロソフトオフィス。そして、私の右手の中指。
そんなわけで、やはり名前とは大事なものだと、改めて思い知った次第である。そりゃそうだ、同じ名前なら大成したいに決まっている。しかも、ペンネームなら、いくらでも変画の可能性はあり、それは自分の意思で好きに決められるのだ。
いつやるのか、今でしょう。
そう言わんばかりに、サイト上では、ご丁寧に相性の良い姓名を同時に複数紹介してくれている。今すぐ決めろと言われても、この歳になると重い腰は、なかなか上がらないものだが、いずれ気に入った姓名に行き当たれば、改名も是非、検討しようと思うわけだ。
その時がきたら、「こいつ、とうとう決断しやがったな」と、胸の内でニヤリとしていただけると嬉しい。
蛇足として、「かん」の後ろに読点を追加してみたところ、総画二十三画で『吉』に転じた。もう「古博かん。」でいいんじゃないか——と、安易に考えてしまうあたりに、私の適当さが滲み出ているのだろう。
これが、私のペンネームに関する裏話である。
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