第24話:6-1;元の世界かな


「わしが毒殺して投獄?なんの冗談じゃ?」

「わしには家族はいるし店もあるしきちんとした仕事もあるぞ」

「昔の毒薬販売未遂から救ってくれたことは、今でも感謝しているぞ」


 コオはスキップしながら駆けていた。その足取りは羽ばたく鳥のように軽かった。太陽に照らされた顔は太陽のように明るかった。


「ワンダホー!!!」


 コオは心から喜んだ。

 走る走る。

 喜ぶ喜ぶ。

 コケるコケる。


「へへへ」


 こけた後も喜ぶ姿は、危険な人物のようだった。

 しかし、彼は危険な人物ではなかった。

 幸せな人物だった。


「大丈夫ですか?」


 コオに手を伸ばす人。

 その手を取るコオ。

 その人に感謝をして、再び走り始める。

 またコケる。


「へっへっへ。だっせー」


 コオを嘲笑うひと。

 その人の手を取るコオ。

 その人に感謝して、再び走り始める。

 またまたコケる。


「おい、てめー、見つけたぜ」


 コオを捕まえようとする人。

 その人の手を取るコオ。

 その人に感謝して、再び走り始める。

 今度はこけない。


「やっほー!」


 その有頂天ぶりは皆をポカーンとさせた。

 助けようとしたもの、馬鹿にしたもの、捕まえようとしたもの、皆が口をポカーンと開けていた。

 ポカーンとしていないものは、コオだけだった。


「へへへ」


 笑いながら街を走るコオ。泣きながら逃げ惑う人。

 街中を走るコオ。街中を鳴る警報。

 回復していくコオの心。壊れていく街の建物。

 人の流れに逆走して走り続けるコオの前には、壊れた建物が倒れ掛かろうとする子供がいた。コオはそれを間一髪助けた。ありがとうと感謝されたので、どういたしましてと返事した。少しのかすり傷を気にせずに走っていった。

 さらに走っていくと、怪我を治療しようとしている老人に出会った。その老人は、草を口に運ぼうとしていた。コオは、その手を掴んで止めた。老人はどうして止めると聞いてきたので、コオはそれを毒薬だと言った。そしてその毒薬を奪い、代わりに自分の薬草を与えた。老人がそれを飲んで元気そうなところを確認すると、コオは毒薬でかぶれた手を気にすることなく走っていった。

 さらに走っていくと、モンスターに囲まれている少女に出会った。その少女はモンスターの大群に恐れることもなく立ち向かっていた。その様子は一見すると助ける必要がないようにも見えた。事実、彼女は1人で戦っていた。強いのだろう。立派なのだろう。しかし、本当に恐れない人はいない。本当に強い人はいない。本当に立派な人はいない。そう思いながらコオは、少女の背後を狙ったモンスターを殴り飛ばした。


「大丈夫か、ナオ」

「コオ? どこに行っていたのよ」


 2人は背中合わせになった。互いに相手に背中を預ける信頼の高さ。


「これで背中を取られることはなくなったな」

「それは私を馬鹿にしているの?」

「いいや、心配したんだ」

「えええ?」


 ナオは不満顔だった。しかし変にドギマギもした。


「本当に心配したんだよ。背中をとられて危ないじゃないか」

「ほ、本当に心配したのは私の方よ。コオはすぐに逃げたじゃないの」

「ああ、逃げた」

「しかも、魔王軍の手先みたいに言われて、周りから疑われて」

「ああ、疑われた」

「ちょっと、ちゃんと聞いてる?」

「ああ、聞いてる」

「……なら、いいけど」

「それから、ナオ」

「何?」

「好きだ」

「えええぇぇぇえ!」


 ナオは顔が真っ赤になった。集中力が途切れた。

 その隙をモンスターたちは見逃さなかった。モンスターたちは一斉にナオに襲いかかった。


「は、恥ずかいいじゃないのー!」


 ナオはコオにビンタ攻撃。

 コオは回避した。

 襲ってきたモンスターにビンタがクリーンヒット。

 モンスターを倒した。


「あ、危ないって」

「はわわっわ!」


 恥ずかしさでナオは聞いていなかった。

 ナオはさらに連続ビンタ攻撃。

 コオは回避した、回避した、回避した。

 モンスターにビンタがヒット、ヒット、ヒット。

 モンスターを倒した、倒した、倒した。


「ちょ、ちょっと」

「きゃぁぁぁー!」


 ナオは魔法の円を書いた。

 召喚した木刀を掴み、真っ二つにした。

 そこから強靭な魔力の塊がコオを攻撃。

 コオにヒットした。

 その魔法が周りに広がった。

 モンスターたちは倒れた。

 ……


「――もう、恥ずかしいじゃないの」

「なにしてくれているんじゃ!」


〈周りのモンスターは全滅した〉


 噴煙が上がり、建物もいたるところが壊れていた。ナオはやりすぎだ。コオは生きていたが、大ダメージを受けていた。遠くからそこに駆けつける応援の戦士たちは状況を見る。


「なんて状況だ。激しい先頭だったことは容易に想像できる」

「(いえ、ほとんどナオ魔法のせいです)

「あそこに瀕死の少年がいるぞ。きっと、モンスターにやられたんだ」

「(いえ、ナオにやられました)」

「少女がいる。よかった、巻き込まれなかったようだ」

「いえ、原因はこいつです」


 コオは状況を勘違いした戦士たちに本当のことを言う元気がなかった。説明がややこしくて時間がかかるし、納得してもらえるかもわからない。


「あれ? コオ、どうしたの? 怪我している」

「(お前のせいだろ!)」


 ナオに対してはなおさら言う元気がなかった。

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