第20話:5-2;世界が違うかな
黒い曇り空のもと、コオはギルドに戻った。
ギルドにある酒場。
いじめられっ子3人との戦いの時に荒らしてしまったところ。
「あれ? また新しくなったのか?」
コオは椅子に座るや否や呟いた。その椅子やテーブルは埃まみれで傷だらけで黒ずんでいた。
〈何か新しくなったのか?〉
「いや、まあ、ここのテーブルとかが変わっているんだ」
〈じゃあ、綺麗になったの?〉
「いや、逆だ。むしろ汚くなっている……」
このコオの言葉を聞いて、店の人が少し睨んでいた。それを察したのか、コオは少しビクついて身をかがめた。
「……少し個性的になっているんだ」
〈そうなの? まあ、たまには買い換えるんじゃないの?〉
「いや、つい最近に買い換えたばっかりなんだ、俺のせいで。いや、本当は俺のせいではないんだけど、俺のせいで」
コオは嫌な思い出が蘇った。弁償させられた思い出だ
〈理不尽な借金、というやつ?〉
「そう、それだ!」
勢いよく指さした。コオは理不尽さに相当の恨みがあるようだった。
〈そのお金でこのテーブルとかを買い換えたってこと?〉
「いや、そうじゃないんだ」
〈というと?〉
「こんなにボロ……個性的なテーブルではなかったんだ」
コオは妖精に向けた指を曇った木のテーブルに向けた。買い換えたテーブルはもっと綺麗だった力説する。
〈では、また新しく買い換えたのではないのですか?〉
「そんなわけあるか。今日の朝まできれいな……違うテーブルだったんだ。椅子もな。それが少し離れた隙に変わるわけないだろ」
〈わからないですよ。テキパキと迅速に変えたのかも〉
「そんな、お前の口調と違うんだから、そんなに直ぐに変わるわけないだろ」
〈私の口調はそんなに変わっている?〉
「よく変わっているよ、さっきから。敬語になったりタメ口になったり」
〈すまんね。下界で話すことに慣れていないもので〉
「それはもういいって。それに、また買い換えたにしては、このボロさはおかしいさ。どう考えても、年代ものだよ」
そこに店員がきた。コオはオレンジジュースを2つ頼んだ。店員は去っていった。
〈ちょっと待て。なぜオレンジジュース? 酒だよ酒〉
「うるせえ。注文しただけでもありがたく思え。それに、お前のそのナリで酒は不自然に思われるんだよ」
〈それなら、君が飲むていで頼んでくれよ〉
「ばかか?! 俺は未成年だからまだダメだよ」
そうこう話しているうちにオレンジジュースが届いた。色々と難癖を続けていた妖精が上機嫌に飲んでいる姿を見て、コオは嬉しいような腹立つような異なる2つの感情を持っていたが、考えるだけ無駄だと思ってやめた。そのままコオはギルドの様子を見ていたが、ところどころ何かが違っているような気がした。何が違うのかはよくわからなかった。
天井? 品揃え? 人?
コオは、今まであまりギルドなどの風景をあまり見てこなかったことを残念だと思った。何が違うのかという謎をうやむやにしたまま気持ち悪い気分だった。
「――すみません、隣いいですか」
コオが考え事をしていると、相席を求める声がした。コオは上の空で適当に返事する。
「どうぞ。いいですよ」
そう言いながら相手を見たコオは驚いた。知っている人だった。
「父さん?!」
コオの言葉を聞いて、相手は驚いた。それは子供を発見した驚きだとコオは思ったが……
「ええっと、どちらさまですか?」
相手の反応にコオは納得いかなかった。茶化されているのだと思っていた。
「俺だよ俺。コオだよ。父さん、息子の顔を忘れたの?」
相手は不審者を見る目でコオを見た。コオは少し変な空気を察知した。
「いや、俺に子供はいないけど」
「は? 何言っているんだ? ボケているのか?」
「いや、こっちのセリフだけど……」
互いに話が見えない様子。
そう言い合っているところに、女性の声。
「――あら、トトさん。子供がいたのですか?」
コオはその声に聞き覚えがあった。その方向を見た。
「母さん?」
その言葉に女性は反応した。しかし、コオが期待していた母親の反応ではなかった。
「あらあら、トトさん。勝手に私をこの子の母親ということにしているのですか?」
「ち、違うんだカカさん。この人が勝手に」
「あら? 自分の子供をまるで他人みたいに。ひどい人」
「いや、だから違うんだ。俺には子供はいないんだ」
「10年以上私に付きまとっていながら、本当は家庭を持っていたなんて、私にどうして欲しいのですか?これ以上邪魔をしないでください!」
ビンタ炸裂。そのままカカはトトから去っていった。
「待ってくれよー。俺はカカさん一筋なんだからー」
トトが情けない声を出しながら追いかける。その様子を見ながら、コオは震えていた。
「ど、どういうことだ?」
〈そりゃあ、当たり前だろ〉
コオは妖精のほうを向いた。泣きたいのを我慢していた。
「どういうことだ?」
〈ここは君が生まれなかった世界。したがって、君の父親と母親にあたる人物は結婚する運命ではない〉
コオは意味がわからなかった。妖精に出会ってから理解できないことしか起きていないという様子。
「お前、何を言っているんだ?」
〈だから、君が生まれなかった世界において、君の両親は両親ではないんだ〉
コオはこわばった顔で妖精に近づいた。頭がおかしい妖精を正したい気持ちなのだろう。しかし、自信を失っていて、自分の頭がおかしいのではないかともコオは思い始めた。
「だから、お前はさっきから何を言っているんだ?」
〈何回も言わすな。この世界ではあの2人は君の親ではない。その結果として結婚もしていないということだ〉
コオは変な笑い後こみ上げてきた。困り過ぎたら笑うしかないのは人間の防衛本能としてあるのだ。
「ひっひっひっひっひ。どういうことだ?」
そう思考停止しているコオ。
しかし、その思考停止は直ぐに終わった。
賑やかなモノたちがギルドに入ってきた。
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