政府公認結婚マッチングアプリ「AI:sachi」
北 流亡
Case01.島野 絵美莉
1-1
「絵美莉も絶対やった方がいいよー」
「いや、でも私みたいなブスがやっても無駄だよ……」
二階堂晴菜、いや鈴木晴菜が、テーブルの向こうからスマホを突き出してくる。
その画面に、例のアプリが映し出されている。
政府公認結婚マッチングアプリ「AI:sachi」
政府が少子化対策の一環として打ち出した、AIを活用した結婚マッチングアプリ。その名前を聞かない日は無いくらい、頻繁にCMが流されていた。
なんでも、マッチングにスーパーコンピューター「Q-LAKE」を使用しているらしい。1秒間に82京1060兆回という計算能力を用いて、完璧にマッチングする相手を見つける……なんてふれこみをされている。
正直、それがどれだけ凄いことか私にはさっぱり理解できないけれど、目の前にいる友人の熱の入れようを見る限り、その効果は本物なのかもしれないと思えてくる。
「ほんとほんと! 間違いないから! 絶対に素敵な人が見つかるから!」
「は、はあ……」
私はちょっと引いてしまう。
しかし「夫婦別姓が認められるまでは絶対に結婚しない!」と豪語していた二階堂晴菜が、あっさりと鈴木晴菜になってしまったのだ。それだけ素晴らしい相手が見つかったのなら、これだけ前のめりになるのも頷ける。
「恋はね、人を変えてくれるの」
私は背中に鳥肌が立つのを感じた。半年前まで「男なんて要らない、私は1人で生きていく」と言い張っていた人間の口から出たセリフとは到底思えなかった。
しかし、その気の強い性格はともかくとして、晴菜はスレンダーだし、顔も美人だ。そんな美人なら、そもそもマッチングアプリなんて使わなくても、遅かれ早かれ素敵な相手が向こうからやってきたんじゃないだろうか。
それに比べて私はデブかつブスだ。スーパーコンピューターだかハイパーコンピューターだか知らないけど、こんなブスの貰い手を見つけるのは不可能としか思えない。アタリの入っていないクジは82京1060兆回引いても全部ハズレだ。
「私なんてデブだしブスだし……」
「まーた始まったネガティブモード」
「だって……」
「『だって』『でも』『私なんて』、そういうの良くないよ? ネガティブな言葉はネガティブな結果を引き寄せるんだから」
「………」
「とにかくね、登録だけでもしてみて。絶対良かったと思うから」
「はあ……」
私は窓に視線をそらす。土曜の昼間とはいえ、大通りには随分とカップルが多いように見えた。
紅茶はぬるくなっていた。溶け切らなかった砂糖が、底に残っていた。
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