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「はあ……」
私はベッドの上に体を投げ出して、スマホの画面を眺めた。
晴菜から何度も何度も『AI:sachi登録した?』とLINEが来るものだから、とりあえずインストールはしたものの、そこから進める気にはなかなかなれなかった。
私が? マッチングアプリ? 鏡を一瞥する。醜い豚がこちらを見ていた。
『圧倒的計算能力と最新鋭アルゴリズム診断で、理想の相手見つけてみせます! アイサチ!』
テレビから、またCMが流れてくる。10分に1回はこの耳障りなフレーズを聞いてる気がする。
私は、なんだかヤケクソな気分になってきた。
「見つけられるもんなら見つけてみなさいよ」
スマホに、吐き捨てるように言った。「登録」と書いてあるボタンを勢いよくタップする。軽快なサウンドと共に登録画面が現れた。
『ようこそAI:sachiへ! まずはプロフィールを入力してね!』
「アイちゃん」と「サチくん」という2匹のペンギンが、登録画面を引っ張ってくる。
項目は、ぱっと見ただけでも多い。
氏名、年齢、性別はもちろん、血液型や出身地、はては学歴まで書かされる。もちろん体重の入力欄もある……ここで少し心が折れそうになる(何kgか下方修正しようとも思ったが、思いとどまった)。
『次は写真を撮影するよ!』
「アイちゃん」がきらきらな声で言う。どんよりした気分になる。インカメラ越しに映されるブスofブス。私はあらゆる角度から一番マシな角度を探す。もちろん、見つからない。
とりあえず、右斜め上から見下ろすような角度から(体が出来る限り小さく写るようになるべく腕を目一杯のばして)撮った。写ったのは、ブスの中ではマシなブスだが、やはりブスだ。
写真撮影が終わると、今度は質問攻めが始まった。
『休みの日は外出することが多い?』
『犬より猫が好き?』
『恋愛は引っ張るより引っ張られる方が好き?』
『インドアよりアウトドア派?』
といった定番っぽい質問から、
『魚を綺麗に食べられる?』
『白い服は好き?』
『宇宙人が職場に来たら仲良くできる?』
『UMAの存在を信じる?』
なんて、わけのわからない質問まで、延々とされ続けた。
質問は全部で500問あり、それを答え終わるまでに30分が経過していた。
『回答ありがとう! あとはマッチング通知まで待っててね!』
「サチくん」が朗らかな声で言う。なんだか、どっと疲れが押し寄せてきた。
スマホをベッドに放り出し、横になる。しばらくそうしていたけど、まだお風呂に入っていないことに気がついて立ち上がろうとする。スマホ通知音が聞こえてきた。
まさかもうマッチング? いやいや、さすがにそれは無いはずだ。晴菜からの催促のLINEかもしれない。スマホの画面を見る。
『広川 蓮司さんとマッチングしました。12時間以内にアプリをご確認下さい』
「えええええっ!?」
そのまさかだった。変な声が出る。登録が終わってから、まだ5分も経っていないはずだ。
心臓がどくどくと鳴っている。うるさいと感じるほどだ。
指が震えていた。暗証番号がうまく押せない。やっとの思いでホーム画面までたどり着くと、すぐにアプリを起動する。
『おめでとう島野 絵美莉さん! 広川 蓮司さんとマッチングしたよ!』
派手でチープな文字演出と共に、マッチング相手――広川 蓮司――の顔写真が映されていた。
私はどう、と後ろに倒れる。
「かっこいい……」
胸に、手を当てる。どくどくと脈打っている。良かった、心臓は破裂していない。
スマホは部屋の隅に転がっていた。
その画面には、好みドンピシャの塩顔イケメンが映っていた。
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