第2話 バイクを取り戻せ

 頼れるのは金と己だけだ。邦子はこれまでの人生で強く実感していた。強くなければ生きていけない。他人に優しくないと人として生きる資格がない。


 土曜日の夕方、伊達邦子だてくにこは飯島興業の倉庫前にいた。飯島隼いいじま はやぶさに盗まれたバイクがある。ここは、飯島組長が経営するダミーカンパニーで間違いないだろう。


 女はベレッタ 92A1の安全装置を解除した。銃口にねじ込み式のサイレンサーを装着し、9ミリの亜音速弾が入った14発マガジンを抜いて、残弾を目視で確認する。

 外階段をかけ上がり、2階のチャイムを押した。若い男がドアを開けた。男は知らない女に首をかしげる。

「誰だお前? 」


 女は出会い頭にヤクザの腹を撃った。サプレッサー越しの低い発砲音が響く。男は苦しみながら仰向けに倒れた。女は男の頭に拳銃を突きつけて質問する。若い男は息が荒く、小さい声でしか答えられない。

「ここにバイクを持ってきた男がいるだろう? 」

「組長の息子さ」

「もう、貴様に用はない」


 銃口につけたサプレッサーから煙が漏れる。ベレッタ92はサプレッサーを装着しても弾が詰まらない。確実に作動する信頼性の高さが売りだ。


 伊達はショルダー・ホルスターから黒く光る9ミリ拳銃を抜き出した。スプリングフィールド・XDの銃口にはコンペンセイターを装着してある。XD mod.2は16発、XD mod.2サブコンパクトは9ミリ弾を10発装填できる。


 早足で外階段を降り、女は入口の扉から突入した。走りながら2人のヤクザに銃口を向ける。1人に9ミリ弾を3発浴びせながら。

 老年ヤクザの1人はポケットから抜き取ったドイツ製の拳銃で応戦する。スパイ映画の主人公が長年に渡って愛用している拳銃を連発した。


 2人は同時にスライドが後退した拳銃を向けた。伊達は10発マガジンを投げ捨て、新しいマガジンを入れる。スライドリリースボタンを押して、後退したスライドを元に戻す。

 老年の男はワルサーPPKのマガジンを床に落とし、新しい6発マガジンを入れて、後退したスライドをさらに引いて戻した。

「さぁ、来いよ。かかってこい」

「撃っていいのは、撃たれてもいいやつだけだ」


 機関銃のような速さで拳銃を早撃ちする。伊達は仰向けに倒れた男の脈を取った。年寄りに抵抗する力は残っていない。女は「上手に撃てないのに人を撃つな」と吐き捨てた。


 柱の影で組員が電話をかけている。伊達は9ミリ弾で組員の頭をぶち抜いた。拾い上げた携帯電話を耳に当て、声を聞く。

「あなたがリーダーかな? 」

「誰だ? 子分に代われ」

「子分は死んだよ。アジトにいる連中みーんな死んじゃった」

「5分でそっちに行く。覚悟しとけよ」


 伊達 邦子は床に落ちていたM16A2 小銃ライフルを拾った。子分のポケットを探り、30連マガジンを回収する。一点式のスリング (負い紐)を体に身につけ、自動小銃フルオートライフルを構えた。


 _______


 6分後、黒塗りの高級車が飯島工業の倉庫に到着。8人の男が3台の車から続々と降りてきた。若頭は車のドアを開けて組長を出迎える。

「飯島組長 こちらです」

「うむ。思う存分暴れてこい! 」


 伊達は物陰から不意打ちを仕掛けるチャンスを待っていた。M16をしっかりと肩につけて発砲する。ヤクザの眉間みけんに鉛玉が食い込んだ。

「グワーッ」という叫び声が聞こえる。


 全身を黒スーツで覆った若頭わかがしらがリボルバーを扇射ファンニングする。トリガーを引きっぱなしにしたままハンマーを叩くやり方だ。357マグナムの轟音ごうおんが周囲に響いた。

 若頭が部下に「お前ら、援護しろ! 」と命令する。ウージー サブマシンガンを持ったヤクザが率先して反撃に出た。


 伊達はSUVのエンジンブロックを盾にした。銃撃でボンネットに穴が開き、前輪タイヤの空気が抜ける。邦子はボンネットの上に顔を出して、小銃ライフルを発射。顔を引っ込めて敵情を伺う。

 伊達は正面から突撃する組員に狙いを定めた。サブマシンガンを持った男が胸を撃ち抜かれて転がる。


 若頭はアメリカ製のリボルバーのシリンダーからひっぱり出した空薬莢を床に落とした。357マグナムの弾を装填し、シリンダーを回す。

「お前ら、撃ちまくれ! 」


 M3サブマシンガンやウージの連射音が終わった。怒声とうめき声の合唱が耳に入る。伊達は周囲に目を配りながら、次の目標を探した。


 伊達はM16の銃口を上に向けて反対側を振り返った。組員がアメリカ製のM10 リボルバーを激しく連発する。女が間髪を容れずに撃ち返す。組員は銃弾を3発食らって地面に転がった。


 伊達は姿勢を低くして、車の後部ドアまで移動した。空になったマガジンを地面に落とす。新しい30発マガジンを入れて、ボルトキャッチを押して初弾を装填する。

 M16A2を太ももに添えて、9ミリ口径の拳銃に持ち替えた。銃口のSpringer製コンペンセイターが発砲時の衝撃を和らげてくれる。


 2人のヤクザは飯島組長をかばって後ろに下がった。彼らは明らかに恐れをなしていた。若頭は黒塗りのレクサス LXに組長を誘導し、後部座席に乗せた。

「組長 後は私が対処します」

「うむ。任せたぞ」


 伊達はM16を乱射、レクサスは逃げていく。

襲いかかってきたヤクザの腕をつかみ、リボルバーを地面に投げ捨てた。顔面をひじで殴り、腹にりを食らわせる。倒れた男の頭をアメリカ製の9ミリ拳銃で撃ち抜く。


 コートからスパイダルコのナイフを取り出し、右手で刃を展開した。若頭の護衛を切りつけ、首をき切る。死体を激しい銃擊の盾にして、拳銃を早撃ち。


 若頭の右肩に9ミリ弾が直撃。骨が砕け散り、力が抜けてゆく。若頭の手からスタームルガー・ブラックホークが転げ落ちた。

 伊達 邦子は若頭に小さなXD拳銃を突きつける。若頭は悲痛な表情を浮かべた。まるで死を覚悟した患者のように。

「悪いが死んでもらう」

「ガキのくせに強いな。負けたよ」


 伊達は若頭の太ももをスパイダルコのナイフを刺した。男は叫び声も上げない。

「組長の息子はどこにいる? 」

「ブルークラブで連日遊んでいるバカ息子か」

「そうだ」

「たかが、ガキ1人で何ができる。子飼いのプロに殺されるぞ」


 一発の銃声が響く。

 伊達はPCX 125のエンジンを始動させた。相棒と再開できた喜びを感じながらバイクを走らせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る