第737話 千陣重遠
「今日、
低いイケボが、今生の別れを告げた。
ショックを受けている千陣勇は、何とか、声を出す。
「だ、誰の子供でも……ウチから抜ける必要は、ないだろう!? 九条家のご当主、君のお父さんには、何と言うつもりだ?」
混乱する勇に対して、和眞は、静かに教える。
「九条家の次期当主は、親戚の誰かが、養子に入ればいい……。君に教えておくが、
すでに、決意を固めている和眞。
いっぽう、勇は、正座をしたまま、両腕を組んだ。
「和眞……。君に、まだ言っていない事がある……。ウチについては、自主的に脱退すれば、二度と関わらない限り、それで済むだろう。だけど、他は違うんだ」
思わせぶりな言い方に、和眞は、重遠を抱いたまま、勇を見据える。
「何を言いたい?」
「
その意味を考えた和眞は、眉を
「男子だから、雅の子供と確信されなければ大丈夫と、思っていたが……。君の情報が正しいとすれば、桜技流の
「和眞……。考え直しては、くれないか?
首を横に振った和眞は、最初の問いに、答える。
「数年間、この子と過ごすために、頑張ってきた……。ここにいては、それを実現できないんだ。分かってくれ、勇」
溜息を吐いた勇は、唐突に、話題を変える。
「桜技流の
真剣な表情になった和眞が、応じる。
「
「松川雅は、地上に降臨した女神であり、たとえ遺体であっても、
ここで、和眞が、疑問に思う。
「待ってくれ……。そもそも、なぜ、桜技流で動かない?」
首肯した勇は、説明する。
「そこだよ……。話が戻るけど、柊家はどうも、桜技流を信用していないようだ」
「穏やかじゃないな……。下手につつけば、柊家と敵対している高家が、こちらに首を突っ込んでくると」
「君が一般人となれば、彼女たちに、追いかけられる。桜技流に後ろ暗いことがあれば、手段を選ばないだろう……。でも、君を追い詰めたくて、教えたわけじゃない」
言葉を切った勇は、1つの提案をする。
それを聞いた和眞は、絶句した。
「…………本気で、言っているのか!?」
「僕は、雅に助けてもらった身で、将来の九条家には……いや、千陣流には、君の力が必要なんだ! どうせなら、柊家も巻き込んで、君たちの子供……重遠くんを守ろう。ただ、このプランが上手くいっても、その……」
軽く頭を振った和眞は、続きを言う。
「僕は、名乗れないか……。しかし、桜技流も絡んでいるとなれば……」
――当主会
千陣家の大広間では、十家の当主が集まり、二列で向かい合う。
上座にいる千陣勇の発言で、場は騒然となった。
「お考え直しください!」
「それは、あまりに、ご無体な!」
「
「我らの長い歴史を何と、心得ているので!?」
口々に
「何と言われようとも、これは決定事項だ! 宗家として、最終決定権を行使する!!」
――九条和眞が連れてきた重遠を養子に迎えたうえで、次期宗家とする
「話は、以上だ! 皆、ご苦労……」
スッと立ち上がった勇は、下座の引き留める声に構わず、大広間から歩き去った。
残された集団は、その場で泣き崩れるか、他の当主と向き合い、
「我らを無視して、あの態度! もはや、許せん!! 御宗家の乱心となれば――」
「
「そうだ。
ここで、騒動の中心である、九条家の当主――和眞の父親――に、視線が集まった。
誰かが、ひやりとする声音で、問いかける。
「九条どの? ……ご説明、いただけますな?」
正座のままで、九条家の当主が、顔を上げた。
「皆々様には、ご心労をおかけして、大変申し訳ない……。かくなる上は、私が知っていることをお伝えする。けれども、これは、当流の存続に関わる話……。先に、結界をお願いしたい」
――真実を知らされた後
結界を張ったままの大広間には、悩む顔ばかり。
「これは……。外に漏れれば、千陣流が崩壊するぞ!?」
「護衛の式神も倒されたとはいえ、御宗家が妖怪の親玉に、命乞いか……」
「その後には、
「
「今更言っても、仕方あるまい? 逆に、不審がられる」
「先代さまも、その
「四大会議が襲撃されたとなれば、警察はともかく、同じ四大流派には、うすうす感づかれていると、見るべきか?」
「ああ……。聞けば、桜技流の柊家も、こちらに接触しているようだ」
「我らに全く情報がない、
「
こうなっては、千陣勇のワガママと、切り捨てるわけにもいかない。
四大流派はいずれも、虐殺の真実を知りたがっていて、勇は、数少ない生存者だ。
「よもや、御宗家が、魔王と取引したのでは?」
「いずれにせよ、奴は、先代さまの
「御宗家だけが、五郎左衛門のいた場所の生存者で、助かった……と言うべきか」
ショックが大きすぎて、十家の当主ですら、現状を整理するのが、やっと。
「
重遠を次期宗家とすること。
「まずは、これだ……。ワシは、認めてもいいと、思う。いつ、魔王の山本五郎左衛門が攻めてくるか、真実が知られるとも、限らんからな? その際に責任を取らせる役割として、悪くない」
息を吐く音があっても、反対の声はない。
それを確認した、弓岐家の当主は、説明を続ける。
「
「うむ。それは、確かだ……」
弓岐家の当主が、重遠を受け入れるメリットを挙げる。
「であれば、九条家の血……それも、『最年少で隊長格』と認められた力を入れられるのだ。順番が、少し変わるだけ……。加えて、和眞どのも、九条隊を結成したうえで、我らに貢献してくれるだろう。九条どの?」
頷いた、九条家の当主は、力強く、断言する。
「ああ……。和眞は、私が説得しよう。本人も、そのつもりだ」
――原作の始まり
千陣流の宗家、千陣勇が、叫ぶ。
「新任の隊長は、中へ入れ!」
他の隊長が立ち並ぶ場所へ、立派な和装をしている九条和眞が、摺り足で入ってきた。
立ち止まった和眞の後ろから、勇の声。
「九条和眞は、先の検分により――」
隊の立ち上げで、忙しい和眞に、1人の女子高生が、訪ねてきた。
ロングの黒髪を後ろで束ねていて、上品な雰囲気。
暗めの紫の瞳は、知的だ。
癒し系の声だが、緊張した様子で、自己紹介をする。
「十家の1つになった、柊家が配下!
畳の上に両手をつき、頭を下げた、美少女。
九条和眞は、微笑みながら、告げる。
「ああ、君が……。話は、聞いているよ。重遠さまを支えるため、共に頑張ろう……。その年で分隊長とは、たいしたものだね? 第一分隊ということは、そのうち、軍団長になるのだろう?」
顔を上げた伊勢世は、うっすらと
「それほどでも……」
挨拶を終えた伊勢世は、九条家の屋敷から出た後で、ボソリと
「怖い人……。雅さまが見初めたのも、分かるけど……。あ、あまり、近づかないように、しようっと!」
社交辞令の、わずかな時間ですら、惹かれた。
自分の腕をさすった伊勢世は、いつもより体温が高くなっていることに、気づく。
監視役にあるまじき発言をした後で、パタパタと、自分の住居へ戻る。
ちなみに、後任となった
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