第十九章 主人公との対決とハーレム崩壊

第690話 室矢家ハーレム vs 原作の主人公

 いきなり、俺が世界を支配すると言われたら、どう思うだろうか?


 得意げに言い切った、鍛治川かじかわ航基こうきに、アイドルのような女子高生は、ただ呆れる。



「この子は、ダメよ! ナンパなら、他の女子を狙いなさい! もちろん、あたしも、お断りよ。……せっかくで、悪いわね?」


 庇うように前へ出た、別の女子高生が、代理で答えた。

 最後に、男のプライドを傷つけたことへの、謝罪。


 夏らしいワンピースであるものの、幼い容姿に似合わぬ、迫力だ。


 それも、そのはず。


 彼女は、筆頭巫女の天沢あまさわ咲莉菜さりなをお守りする、局長警護係の第五席、高屋たかや芽衣めいだ。


 お忍びでショッピングの咲莉菜は、芽衣の後ろで立ったまま、相手の様子をうかがう。


 すると――



「何だよ、芽衣? ずいぶんと、ツンツンしているじゃねえか? 俺が咲莉菜を優先したから、ねて……ああ、こっちじゃ、まだ初対面か」



 芽衣は、航基の返事で、戦闘モードへ。


 右手をこっそりと背中に回して、隠し持つ武器を握る。


「どこかで、会ったかしら? 名前で呼ぶことを許した覚えは、ないわよ?」



 外国人のように肩をすくめた航基は、とぼける。


「つれないねえ……。俺は、ロリロリしている、お前を気に入っているのに……」

「これ以上は、穏便に済ませないわよ? あたし達が、普通の女子であるうちに、立ち去りなさい」


 芽衣の声が、低くなった。


 それに対して、航基は、平然と答える。


桜技おうぎ流の筆頭巫女と、局長警護係だろ? もったいつけんなよ……。たいした事でも、あるまいに」


 芽衣は、背中に回した右手を引っ張り、ワンピースのベルトに隠した、携帯型の刀を抜いた。

 紙のように柔らかい素材だが、覇力はりょくを通すことで、かなりの強度になる。


 両手でつかの部分を握った芽衣は、地面をえぐりつつ、航基へ斬りかかった。


 片腕か、片足を潰して、行動不能にする算段だ。


 航基の背中側へ回り込みつつ、姿勢を低くして、足への回転斬り……だが、その前に見事な高速移動で、距離を取られた。


 空振りになった芽衣は、相手に切っ先を向けつつ、ゆっくりと立て直す。


 それなりに自信がある一撃をかわされ、相手の評価を修正した。



「相変わらず、鋭い斬撃だ……。前に見ていなければ、もろに食らっていたなぁ……」


 航基からの反撃は、なし。



 即席の刀を握る芽衣が、口を開いた。


「やるわね? どこの手先かしら?」


 相手を知るための挑発だが、航基は、素直に自己紹介。


「鍛治川流の宗家にして、日本の初代総統でもある。……後者は、未来の話だ。俺の女になる奴らを傷つけたくないから、今のうちに――」

小鳥遊たかなし。こいつを黙らせなさい」


 くすんだ灰色のロングで、明るい茶色の目をした天沢咲莉菜が、端的に告げた。


 次の瞬間に、何もない空間から斬撃が繰り出され、青白い光を放っている刀を持つ、和装の女が、現れた。


 完全な不意打ちで、今度こそ、航基の右腕が、斬り飛ばされた。


 傷口から派手に出血するも、すぐに止まる。


「霊力で止血するぐらいは、腕が立つようでー」


 茶化した咲莉菜に、残った左手で断面を押さえている航基は、怒りの形相だ。


「なん……何だ、今のは!? くそっ! 知らねえぞ、こんなの! 何のレアアイテムか、スキルだ!?」


 咲莉菜は、何も答えず。


 激痛に耐えている航基は、彼女たちを見ながら、バックステップを繰り返した。

 大ジャンプで、近くの屋上へ。



「追いますか?」


 青白い光を放つ御神刀、山城やましろほたるの持ち主である、小鳥遊奈都子なつこ――局長警護係の第六席――は、片手で血振りをした後に、問いかけた。


 首を横に振った咲莉菜は、すぐに命じる。


「不要です。それよりも、残った右腕と、さっきの自己紹介から、素性の割り出しを……。すぐに、この場から離れますよ? 小鳥遊!」


「ハッ! ただちに、周囲への欺瞞ぎまんを行います!」



 いきなりの刃傷沙汰に、通報を受けた警官が駆けつけた時には、地面に残る、大量の血だまり。


 目撃証言と、監視カメラの映像でも、いきなり消え失せたとだけ……。



『緊急事態なのでー! 鍛治川航基と名乗る男子に、襲われかけました。各員、最大の警戒をー!』


 室矢むろや家の嫁データリンクに、天沢咲莉菜の報告が、響いた。



 ◇ ◇ ◇



 女子高生でありながら、多忙を極める、悠月ゆづき明夜音あやね


 彼女の幼馴染で、専属の護衛も務めている、鳴宮なるみや日和ひよりが押しているカートに、食材をどんどん入れていく。


「明夜音さま。少し、買いすぎでは?」


「久しぶりの、重遠しげとおとの時間だから――」

「んだよ。お前まで、千陣せんじんたぶらかされているのかよぉ?」


 驚いた明夜音が見れば、去年の室矢家の話し合いで、散々に論破されていた男子だ。


「鍛治川さん……でしたよね? どのような、御用でしょうか?」


 育ちが良いだけに、丁寧な応対。



 日和は警戒するも、ここはスーパーの中。

 周りの視線が集まっており、下手な行動はとれない。


 その間に、鍛治川航基が、喋る。


「はー! 明夜音は、やっぱり明夜音だな! さっきの今だと、落ち着くぜ……。いや、何! 咲莉菜に会ってきたんだが、あいつ、自分の部下をけしかけてきやがってよ! 俺の右腕を斬り飛ばしやがった! ここのハーレムでは、序列を一番下……いや、対象外にしておくと、決めたんだわ。やっぱり、しつけは、ちゃんとしておかないと」


 明夜音が見るも、航基の右腕は、何ともない様子。


 溜息を吐いた後で、会話を打ち切る。


「そうですか。では、頑張ってくださいね? 行きますよ、日和」

「はい!」


 立ち去ろうとするも、その前に、航基が立ち塞がる。


「おっとっと! 勝手に、決めつけるなっての! 日本の初代総統になる俺が、咲莉菜じゃなく、お前を一番目の女にしてやると、言ってるんだから! ま、こっちの世界では……の話だが」


 無表情になった明夜音が、護身用のバレに手を添えて、魔法を発動させようとするも――


「えっ?」


 無効化されたことで、呆然とする。


 航基は、得意げに説明。


魔法師マギクスの魔力は、本質的に、俺の霊力と同じだ。となれば、最強の俺に打ち消せない道理はない……。少しは、凄さが分かったか?」



 以前に会った時とは、まるで、別人だ。


 そう思った明夜音が、考えあぐねていたら、周りの声が聞こえてきた。


「マギクスですって……。まさか、こんな場所で、魔法を使おうとしたの!?」

「怖いわー」

「異能者は、早く規制して欲しいものだ」


 焦った明夜音は、さらに思考が狭くなった。


 いっぽう、航基は、どんどん調子に乗る。


「そう、しょげるなって! 分かれば、いいんだよ。分かれば……。じゃ、とりあえず、明夜音の家へ行くか! 後ろの穴……ああ、お前は、まだ未開発かな? あっちじゃ、『一番締まりが良い穴をお使いください』と、言っていたからさ! 悪い、悪い」



 周りが、静まり返った。


 それから、とても聞きたくないような、ヒソヒソ話が、増えていく。


 スマホの撮影音や、通報らしき声も……。



『緊急ゆえ、今回は、私が対応するのじゃ! 今、増援を送ったから、後は、そやつに任せろ』


 嫁データリンクで、室矢むろやカレナの声。


 次の瞬間に、咲良さくらマルグリットが現れ、黒のセミオートマチック型のバレを向けて、躊躇ちゅうちょなく連射。


 彼女の高い魔力による空気弾は、避けながら、防御する航基を貫き、胴体部にいくつかの穴を開けるも――


「チッ! またかよっ!!」


 明らかに致命傷のはずだが、平気で動き続ける航基。


 困惑するマルグリットは、悲鳴を上げながら、逃げ惑う群衆や、周りの施設を気にせず、瞬間的に凍らせた。


「まっ!」


 明夜音の制止は間に合わず、自分と日和だけが無事の、スーパーの氷河期を見回した。


 魔法で空間把握をしたマルグリットが、拳銃を仕舞いながら、振り返る。


「仕留め損なったわ! 手応えは、十分にあったんだけど……」


 うーん、と悩む彼女に、明夜音は、声をかけようとするも――


「カレナが、全て元通りにするから、気にしなくていいわよ? さっきの航基との会話も、なかった事にするって! そのまま、お買い物をどーぞ」


 次は、頭を撃とうかな? とつぶやいたマルグリットは、カレナによって、自宅へ戻る。



 気が付けば、鍛治川航基が出現する前の、ガヤガヤとした店内。


 明夜音と日和は、2人そろって、溜息を吐く。


「疲れました」

「はい……」


 それでも、必要な買い物を済ませて、送迎の高級車へ乗り込む。



 走り出した車内で、日和は、心配する。


「明夜音さま? あまり、お気になさらないほうが……」


 下を向いたまま、フーッと、息を荒げていた明夜音は、やがて、顔を上げる。


「私のを出しなさい! MA(マニューバ・アーマー)も!!」




『アラート1、アラート1! 第5空挺部隊、ならびに、タイプSのMA3機を出撃準備! これは、訓練ではない。繰り返す、これは訓練ではない!』

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