第329話 新しい室矢家の団欒と予知された自宅への襲撃

 元クラスメイトの寺峰てらみね勝悟しょうごと、その婚約者の多羅尾たらお早姫さき

 それに、ベルス女学校の神子戸みことたまきが、室矢むろや家の寄子よりこになった。


 というわけで、俺の自宅に集まって、パーティー。


 いい加減に、ここを集会所にするのは、止めたいのだけど……。


 狭いんだよ。

 集まる人数が、多すぎる!



「他流を含めた勢力ということで、今後は『室矢家でしかできないこと』で独自性を出しつつも、ひとまずは『高校の卒業』を目標にする! 進路については、俺か、詩央里しおりに、必ず相談してくれ。……ここからはフリータイムにするが、各自で一通り、話をしてくれ! このメンバーで、お互いに、命と将来を預け合うからな?」


 俺の挨拶が終わって、立食パーティーが始まった。

 リビングダイニングだけど、そうしなければ、人数が多すぎて、会話にならない。


 もう自己紹介は終えているので、数人のグループが目立つ。


「そちらの初夜ですが、早めに済ませてください」

「うん。手順は、どうなっているのかな?」

千陣せんじん流は武家の作法で、立会人が一から十まで、見ます。申し訳ありませんが、ウチから1人は、つけますので……」

「分かった。真牙しんが流も、似たようなものだよ……。ウチでは、誰に頼もうかな」

「神子戸先輩。私がやっても、いいけど?」

「ありがとう。でも、スールーで姉妹にしている女子に頼むのが、普通だし……」


「お主も大変だろうから、詩央里とよく話し合え! 同じ立場だから、詩央里にとっても、良い息抜きになるだろう」

「ええ、そうさせてもらうわ……。まさか、他流の女、それも幹部候補を第二夫人にするとは、思わなかった。御姫様おひいさまがお越しになったら、口添えをよろしくね?」


「これ、美味しいよ!」

「護衛の任を忘れてはなりませんよ、睦月むつき

「……お代わり」



重遠しげとお! 今回は、本当に悪かった……」


 急に話しかけられて、俺が振り向くと、平謝りの勝悟がいた。


「気にするな……。それより、お前はこれから、大変だぞ?」

「え?」


 俺の発言に、勝悟は驚いた声を上げた。


「言っておくが、室矢家の当主である俺も、正妻の詩央里が女の処遇を決めたら、従うしかない。たぶん、お前たちについても、同じルールにすると思う」


 つまり、早姫が、やっぱり環はいらない、と決定したら、そうなるのだ。


 それを理解した勝悟は、顔が引きつった。


「お前の発言では――」

「無理だ。複数の女を囲うが、その代わり、詩央里に全権を委ねた。詳細は省くが、あそこにいるメグも1回、追放されかかったぞ?」


 端的に説明した俺が見たら、勝悟は青い顔だ。


 構わず、親友が行った所業について、解説する。


「なあ、勝悟……。俺も迷惑をこうむったし、早姫との婚約を黙っていたことに怒ってもいる。だが、お前は環の尻を追いかけてばかりで、正妻の早姫をないがしろにしていた。そのせいで、ベル女との面談をした時の早姫は、隣に座っている俺をののしることで、かろうじて、正気を保っていたんだ」


 今から思えば、真牙流でも上位の女子校であるベル女の学年トップに、怖がっていたのだ。


 彼女たちと親しい俺ですら、かなりのプレッシャーを感じていた。

 まして、性的な魅力が関係なく、初対面で相手の肩書きだけし掛かってくる状況では、どうだろうか?


「相手は、俺たちの2倍……。魔法を使える実力者たちに、早姫は心底怯えていた。彼女にしてみれば、相手が無言でも、『あなたが環を認めてくれれば、丸く収まるのよ?』と、脅されている話だ。婚約者の早姫も会談に応じた時点で、『環を愛人として認めた』と言い張ることも、可能だった。俺があの場でベル女の味方をしていれば、絶望した早姫は1人で、目の前の魔法師マギクスたちと戦闘を始めたに、違いない」


 その点では、深く考えずに会談のセッティングを了承した俺の責任も、大きかった。

 早姫の立場では、室矢家の当主に逆らえないのだから……。


 自分の思い通りになったことで、勝悟も冷静になったようだ。

 改めて、どれだけ危険な状況だったのか? を噛みしめている。


「千陣流の二家が認めた婚約だ。そこを忘れちゃいけない……。今すぐに、早姫のご機嫌を取ってこいよ? せめて、お前から詫びを入れ、夫婦の関係をやり直していく姿勢を見せなければ、早姫の立場がない」


 俺がさとしたら、勝悟は早姫がいるグループに、向かった。



 入れ替わりで、南乃みなみの詩央里が、やってくる。


「どうだ?」


 うなずいた詩央里は、俺の質問に答える。


「早姫と環の2人には、カレナ、メグと一緒に、話をしました。室矢家の正妻管理をそのまま適用して、寄親よりおやである私も最終決定をチェックする形です。カレナは『ベル女の大破壊』と自身の権能を全て開示しましたが、それで裏切るようなら、早めに片付けておくつもりだと思います。私の代わりに必要なことを言ってくれたので、彼女たちとは友人に近いポジションで付き合っていくつもりです」


 カレナは、隊付きの下士官になったわけか。

 詩央里にも同年代の友人が必要だし、早姫と環からヘイトを集める役割はさせないほうがいいな。


「了承した。今後は、ウチで勝悟たちの責任も負わされるから、元は取っておきたい。使える場面で、しっかり使っていく! 少しずつでも、室矢家としての体制を作っていこう」


 首肯した詩央里は、別の方向を見た。

 釣られて見たら、勝悟と早姫の2人、それに環も向かってくる。


「室矢家のご当主さま! 先日のベル女との会談では数々のご無礼を働き、誠に申し訳ございません。せめて、汚名をそそぐ機会を与えていただければ、幸甚こうじんです」


 打って変わった早姫は、うやうやしくお辞儀をした。

 彼女に押さえられた勝悟も、一緒に頭を下げている。

 その後ろで、環も同じく。


「お、お願いします」

「お願いします……」


 どうしようかと悩んだら、カレナの声が響く。


「なら、ちょうどいい話がある! 懲りずに、『ちょっかいをかけよう』と考えている連中がいる。……重遠、あいつらだ。前になぎと会った廃ラブホの調査でめてくれた広域団体の叔父貴おじきが、利用価値の高いお主らを服従させて、そのまま手下にしようとたくらんでおるのじゃ」


 奴らか……。


 忘れかけていた出来事を思い出し、怒りを抑えつつ、訊ねる。


「連中の思惑は?」


 カレナは、事もなげに説明する。


「数日後に、その広域団体の叔父貴が若衆を引き連れて、ここへ乗り込んでくる。具体的には、若衆がわざとらしく周りのものを壊して、女は手籠め。それで完全に打ちのめされた重遠に、叔父貴が救いの手を差し伸べると……。詩央里、マルグリット、私の3人については、キメさせることで思考力を奪い、散々に廻した後で、情婦として連れ出す。1人になった者から狙い、その行為を撮影することでな? ともあれ、連中は脅しのプロだ。まともに会話をした時点で、思い通りにされるぞ?」


 チッ

 よっぽど、味を占めたようだな。


 傍から見れば、高校生の集団だ。

 今度は、千陣流の十家、真牙流や桜技おうぎ流が出張ってくる前に、室矢家だけ一気呵成に攻め落とし、実質的な奴隷にする気か。


 このマンションの1フロアは、室矢家の関係者だけ。

 他の住人を気にせず、じっくり監禁できる。と考えた……。


「消しておけ! あの時は詩央里が精神衰弱で、実行犯の2人から慰謝料の200万円だけ。その下っ端を始末したのも、親父であって、俺じゃない。おまけに、組織の構成員ではなく、個人と見なした。……その手打ちを台無しにするのなら、もう容赦するいわれはない!」


 そこで、早姫が口を挟む。


「ぜひ、私共わたくしどもにお任せください」


「任せる。必要なら、室矢家の人員にも声をかけろ」


 俺の返事を聞いた早姫は、すぐに動き出した。

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