第320話 浮気の修羅場は哀しみと俺の胃痛しか生まないー②
紗織は、真面目な環とは正反対で、明るい性格だ。
長い茶髪をポニーテールにして、薄い紫色の瞳。
小柄で、とても可愛らしい。
低身長でロリな感じだが、ベル女の高等部2年でナンバーツーの実力者。
自分の魔力を活かした高速戦闘を、得意とする。
必要があれば、普通に張り飛ばす性格だ。
その外見でナメてかかった同級生には、仮想訓練でサッカーボールに見立てて、全方位から蹴りまくったことも……。
紗織の技術レベルは高いが、生身の人間を殺すことに、強い忌避感を持っている。
陸上防衛軍、警察の現場研修、訓練によって、本人も、それを自覚した。
銃口を人に向けたままで撃てず、無意識に逸らすのだ。
ハンドガンの
そのため、消防庁にある、異能者で構成されたレスキュー、高速救助隊(シュネル)を志望している。
第二志望:防衛軍で異能者を集めた衛生兵チーム、通称セイバー
第三志望:救助活動を請け負っている民間企業
安定した人気を誇る女子の1人。
当の本人は、自分の進路を決めてから相手を探そう、と考えている。
その旨は、交流会でやってきた男子に対して、説明。
男子校の交流会には目もくれず、現在は人命救助に関する勉強と、資格取得に集中。
在学中に婚約すると、出産と育児を抱える自分が、妥協させられる。
だから、自分の所属が決まった時点で、それに合わせてくれる男と結婚すればいいと、紗織は割り切っている。
入ってから数年は仕事に慣れるのに手一杯で、どうせ、息を吐く間もない。
第二志望が防衛軍になった理由は、衛生兵は救助に専念できるから。
警察官では、必ずしも救助だけとは限らず、発砲や体術による制圧もしなければならない。
人事異動によって、対テロなどの担当にも……。
むろん、戦場は危険だ。
相手がテロ組織、ゲリラの民兵であれば、国際条約は関係ない。
正規軍でも、誤射を装った狙い撃ちが、日常茶飯事。
そのため、今の衛生兵は識別マークをつけず、歩兵と同じ武装をして、戦場へ赴く。
本人は、自分が傷つく分には構わない、と思っている。
それよりも、役割分担が明確で、積極的に戦わなくても良いことに、注目した。
技術があるだけでは、兵士や警官は務まらない。
本質的に、人をやれるのかどうか? という部分で、
新人への教育では、そういった部分を矯正するプログラムが組まれているものの、紗織は今の自分を壊してまで、他人を殺傷したくない。
教育課程を受けても、いざという時に撃てない。とも感じている。
その結果、『人助け』の観点で、志望を決めた。
神子戸環の親友である雪野紗織が、代わりに話す。
「――というわけで、タマちゃんは失恋したばかり! 壊れ物だから、取り扱いには注意してね? 今の実務は、私たちで行っているよ。お守りは2年を中心に、他の学年からもお供えされて、あの状態になっちゃった」
軽い調子で言い終わった紗織は、ひょいと、肩を
いっぽう、環は、ボーっとしたまま。
雪野紗織は、“絶対服従した可愛い巨乳への中出し大好き” の
彼女に恋愛感情はなく、下の学年で基本的に無関係であることから、面白い子だな、と思う程度。
ベル女は閉鎖された女子校で、仲間意識が強いことから、男子との仲良しの詳細が伝わりやすい環境だ。
主席補佐として、色々な話を耳にする機会に困らず、
重遠が前評判の通りの男子で、2年のつまみ食いをしたら、学年主席の環に指示される前に排除しただろう。
ベル女の大破壊では、環の副官として、現場で第二小隊の指揮をとった。
相手が化け物だったことで、遠慮なく戦えたが、隣にある
いち早く復帰した環が全体の指揮をとり、複数の学年による混成部隊で阻止ラインを敷き、境界線上を挟んでの睨み合い。
重遠が意識を失っている間に、
人命救助を盾に突破しようとする陸防の部隊に対して、環は堂々と宣言した。
『一歩でもベル女の敷地に足を踏み入れれば、侵略行為と見なし、自衛行動に移る!』
これに対して、末端までが筋金入りの反マギクス派というわけでもない歩兵部隊は、困惑した。
召喚された化け物の群れと殺し合いをした直後の女子たちは殺気立っていて、その美しい容姿に似合わぬ気迫だ。
いっぽう、陸防の歩兵部隊は、指揮官の命令がなければ、初弾の装填もできない。
膠着状態に陥ったところで、環は賭けに出た。
まだ外部との通信が途絶しているにもかかわらず、こう断言する。
『すでに
ここに至って、他のマギクスを守るために自分が責任をとり、陸防の部隊と交戦する覚悟を決めていた環と、無抵抗のベル女を制圧して、混乱したままの女子をなし崩しに確保するつもりだった、陸防の士官とで、大きな差がついた。
陸防の指揮官は、境界線上からの撤退を決断。
その直後に、ヘリによる特殊作戦コマンドが館黒駐屯地の司令室を制圧して、一連の騒動に決着がついた。
環の断言が遅れていたら、緊張に耐えかねた誰かがトリガーを引き、そのまま全員での撃ち合いになっていただろう。
ちなみに、雪野紗織は、重遠に好意的。
男女の感情ではなく、思っていたより悪くない、弟としては可愛い、ぐらいの感情だ。
時翼月乃は、元3年の主席補佐で、上の欠員で自動的に昇格した3年主席、
肩ぐらいのボブにした髪は、オレンジにも見える赤茶色。
青い瞳を持つ少女は、話を聞いてから、答える。
「そう……。私ね、知ってたの。
いきなり話が飛んだものの、時翼月乃は、黙って聞く。
「今は防衛任務に行った杏奈が、私にだけ、教えてくれたのよ。本当のことを……。幼馴染の男子と再会したけど、
最後のほうでは、泣いていた。
ベルス女学校は全寮制で中高、長ければ、幼稚舎から一緒の生活。
その、第二の家族といっても良い相手を失ったのだ。
防衛任務は、懲罰部隊。
運が良ければ、帰還後に多くの特典で楽に暮らせるものの、途中で被害に遭ったら終わり。
おまけに、初見殺しがウヨウヨいる場所で、寝泊まりするのだから……。
どう言葉をかけていいのか、と思い、沈黙を守る月乃に対して、遥は宣言する。
「その件は、私に任せなさい……。2年主席の環さんのことは、知っている。あなたからの相談で、踏ん切りがついたわ。もう、後悔したくないの」
――
「
再びテラス席に呼び出された俺は、3年の
でも、俺には、頼りになる人間が多くいるのだ。
「そうですね。まあ、考えてみます。どちらも、俺の知り合いですし……」
頭を下げた晴輝は、感謝の言葉を述べる。
「本当にすまない……。これは借りだ。室矢くんが困ったら、いつでも僕に相談してくれ」
大丈夫。
俺は室矢家の当主だから、命令して、やらせればいいんだ!
――自宅
おーい、
「十家の長女である私が口を挟んだ時点で、まずいじゃないですか!? それに、勝悟さんは、若さまの親友ですよね? 同じ男同士で、やはり若さまが話すべきでは? ……ああ、それと! ベル女の校長が必死な様子で、頼んできましたよ? そちらの意向も考えて、逆恨みされないようにしてください」
えっと……。
プルルル ガチャッ
あ、
『私のために「命を落とす」とまで宣言している
ダメだ。
心当たりが、全滅してしまった。
その上に、どちらも自分の立場で、条件を付け加えてきたよ!
これなら、話さないほうが良かったじゃん!!
「若さまー! 会談の日程、決まりましたよー!」
寺峰勝悟
この2名は、当事者だ。
来てくれないと、逆に困る。
問題は、ベルス女学校のメンバー。
神子戸環
ベル女の校長:
うん。
お前らは、来てくれ。
1年主席:時翼月乃
2年の主席補佐:雪野紗織
3年主席:常泉遥
なんで、お前らも来るの?
呼んでいないよ?
やめてよね。
結束の強い女子が集団で押し寄せてきたら、俺が
仲間が1匹やられたら、一斉に出てきて、攻撃する。
完全に、
あいつら、全寮制の女子校と、陸防の幼年学校から下士官育成の高等学校を合体させたうえに、
どれか1つでも危険なのに、全部を混ぜているんだよ!
昼は汗が出るから、個人の水筒では足りない。
バタバタと倒れていって、女の教官が、お前そこはベッドじゃないぞー! 早く、立てやー! と怒鳴り続ける。
皆、水揚げされた魚みたいにヨタヨタと立ち上がって、まだ元気な生徒が肩を貸すのよ。と言ったマルグリットに、俺は無言で聞いていた。
ここまでは、共通コース。
一般コースは、武装したうえで、『地図読み』が加わる。
上級コースでは、山岳をフル装備で踏破して、夜明けに指定ポイントを強襲。
俺、やっぱり会談を欠席しようかな?
何で、ベル女のトップが、半分も来るんだよ……。
お腹痛いです、と言った後で、着拒して、引き籠もりたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます