第176話 村で追い詰められた凪は自分の立場を知るー②
彼女の心情を
「ここは、追放された異能者の村だ! 要するに、
説明した兄而は、近くにあった岩を
バラバラと、破片が地面に落ちる。
目の前の男たちが一般人ではなく、自分と同じ能力があると知って、凪はそれまでの強気を一気になくす。
それを確認した兄而は、幼い子供に言って聞かせるように諭す。
「俺たちは、昼に食堂でご馳走した! ゆえに、お前はその分を俺たちに返さなければならない。その時にも言ったが、ここでは物々交換だからな?」
自分が捨てられた、という事実を受け止めきれない凪だが、兄而の言い分に反論する。
「じゃ、じゃあ! 私の部屋の食料で返すよ! 冷凍やレトルト食品があるから!」
首を横に振った兄而が、怒りに満ちた表情で
これまでと打って変わった怒声が、露天風呂に響く。
「てめえ……。俺の料理が、そんな安っぽい市販品と同じだって言いたいのか!? あ゛? この道一筋で、20年以上なんだぞ?」
いきなりの豹変に、凪は温泉に浸かりながら後ずさる。
「わ、私、そんなつもりじゃ――」
「お前が言ったのは、そういうことだよ!! ちょっと優しくすれば、これだ!」
「まあまあ……。落ち着けよ、親父! 別に凪ちゃんは、俺たちの相手をしないとは言っていないだろ?」
「昼間は『美味い』と連呼していたのだし、大目に見てよ……。それだけの料理を食べて、お持ち帰りまでしたんだ。これから、お股を開いて、頑張るだろうさ!」
それを聞いて、怒り狂う兄而はようやく気を静めた。
追い詰められた凪は、必死に提案する。
「し、仕事を探して、物を手に入れた時に、それを渡すから!」
長男の戟太郎が、笑いながら言う。
「どいつも、自分の仕事を分けたりしないっての! ここじゃ、街のようにバイトを雇う必要はねーし……。女が1人もいないから、誰に聞いても『お前を抱く』としか言わないぜ?」
次男の番二郎も、それに続く。
「そうそう……。いっそ、これを機会に、僕たちの家族になれば? 村で唯一の食堂だから食いっぱぐれはないし、店の手伝いをすれば済む。頼みごとをする度にいちいちしゃぶるか、突かれるよりは、好条件だと思うよ? 他の男たちに全く抱かれないのは無理だけど、その回数は大きく減るし、普段は僕らが守るから……。もちろん、僕たちの相手はしてもらうけどね?」
お尻がゴツゴツした岩場にぶつかり、凪はこれ以上の逃げ場はないと自覚した。
脱衣所への道は、男3人に塞がれている。
しかし、彼らが油断をしている今なら、
恥ずかしいけど、畳んでいるバスタオルを体に巻いて、脱衣所で服を回収してから、とにかくアパートの部屋まで帰ればいい。
最悪、バスタオルだけでも、全力で走れば、他の人の目には留まらないだろう。
そうだよ。
まだ、私が
考えてみれば、目の前の
それを
予定より温泉に浸かりすぎて、もう頭が回らない。
早くしないと……。
そう思った凪は、いよいよ動き出す。
温泉の底に足の指をしっかりと噛ませた後、思い切り加速した。
溜まっていた湯が
……はずだった。
「あっ!!」
男たちから裸を隠すために、長湯をし過ぎていたようだ。
さらに、
凪はかろうじて温泉から上がったものの、足をもつれさせて転ぶ。
全てをさらけ出したまま、洗い場のほうへ勢いよく倒れ込み、上半身から地面に
しかし、感覚が鈍っているせいか、ほとんど痛みを感じない。
転がりながら、洗い桶などをボウリングのピンのように弾き飛ばした後、ようやく地面に横たわった。
「つー! いったあ……」
ダメージを受けた凪は、自分が置かれている状況も忘れ、反射的に
痛覚がまともに機能していなくても、両目から涙が
残った理性で地面に手をつき、必死に起き上がろうと急いだが、思うように動かない。
「え? どうして!? う、動いてよ!!」
悲鳴を上げる凪だが、完全にのぼせた身体はぐったりとしたまま。
加えて、先ほどの会話で、自分には帰る家もないと無自覚に絶望しているのだ。
うつ伏せの体勢で、両手を地面につけるのが精一杯。
生まれて初めての状況に、彼女はパニックに陥った。
いきなり温泉が上に破裂した光景に驚く男たちは、凪の無力な様子に安堵する。
「親父、ヤるなら早くしてくれ! さっきの噴水で、他の連中もここに来そうだ」
「僕が最後だから、とっとと済ませてよ?」
息子2人に催促された兄而はドタドタと足音を立てて、倒れている凪に近づく。
その様子に恐怖した凪だが、上半身を起こすことも
弱々しく両手を突き出して拒むも、あっさりと払いのけられた。
身体をくねらせ、文字通りに地を
その行動を見ていた兄而は、彼女に引導を渡す。
「お前なあ……。仮に、さっきので逃げられても、この村からは出られないんだぞ? 他の連中に取引を
戟太郎に右腕を押さえつけられ、左腕も番二郎に押さえられた。
凪は、彼らによって仰向けにされる。
涙を流しながら、まだ動く両足をバタつかせるが、それも兄而に掴まれたことで終わる。
「手こずらせやがって……。その分も、きっちり払ってもらうからな?」
ぐぐっと力を入れられて、凪の閉じた両足が少しずつ開いていく。
彼女は残った体力を全て使い、必死に抵抗するが、それも長続きしない。
「あー。お楽しみ中のところ、悪いんやけどなー?」
場違いな女の声が、これから純潔を散らす女と、それを
思わず全員が、その声がしたほうを見る。
そこには、カジュアルな
かなり若い。
それこそ、組み伏せられた凪と同じぐらいの年齢に見える。
露天風呂はライトアップされており、彼女の内部から押し上げている豊満なバストも照らす。
「何だよ、姉ちゃんも入りたいのか? 後ろのお嬢ちゃん達も、ぜんぜん構わねーぜ!」
「これで喧嘩をせずに、すぐ始められそうだね」
戟太郎と番二郎は、若い女が増えたことに陽気な声を上げた。
女子高生ぐらいの少女の後ろには、女子中学生ぐらいの2人が控えている。
3人とも夏用の浴衣で、女物にしては細い帯を腰に締めていた。
「あんたら、誰だ? ずいぶんと物騒なものを差しているが……」
臨戦態勢で天を指している兄而だが、思わぬ女の追加で浮き立つ息子たちよりも冷静に聞く。
なぜなら、武器の持ち込みが認められない村で、男物の
現代の角帯と比べて、
それに、浴衣であるのに
タレ目で
「ウチは、
まさに下半身の収まりがつかない状態の若者2人が、噛みついてくる。
「これは、俺たちの女だ! 千陣流だろうが、この村で大きな顔をするんじゃねえよ!!」
「村には村の
それを聞いた柚衣は、両足の膝を曲げ、それぞれ身体の横につけていた両手を
少し身長が下がっただけで、パッと見では分かりづらい。
けれども、周囲の空気が引き締まっていく。
明らかに敵意を見せた柚衣に、若い男2人が
「おいおい……。てめーが襲ってくるのなら、こいつがどうなっても知らねえぞ? いくら霊力があっても、俺たちのほうが早いからな?」
「こいつは完全にのぼせているから、君たちじゃ間に合わないけど?」
ところが、柚衣はニヤッと笑い、あっさりと返す。
「おー、そーか! なら、手間が省けて助かるわ……。自分の立場も分からんアホだから、この場で斬り捨てられるか、あんたらに殺されても、自業自得やろ」
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