第150話 社会の秩序を乱す巨乳が警察官になる日
自宅に帰った後で、セントリー警備会社から探偵事務所に移るべきか、話し合う時間を設けた。
いつもの
「私は、『移って良い』と考えています。貴重な収入源で、退魔師に理解がある社会人とのパイプですから……。
「探偵になれば、銃を持てるの?」
「いえ。
詩央里から説明を受けたマルグリットは、そう、と返事をした。
「私は、『メリットが大きい』と考えている。個人と組織では、動ける範囲と信用が段違いだからの! まさか、パトロール中の警官に捕まっただけで
それは、そうだ。
ただでさえ、これから千陣家に言い訳をしに行くわけだし……。
全員が発言したので、結論を言う。
「全員で、探偵事務所に移籍しよう! あの課長がそのまま所長だから、他社へ移って合わない上司とぶち当たるリスクを抱えたくない。それに、退魔師は怪異を退治するのが本来の役割だ」
俺の発言に、反対の声は上がらない。
参謀である詩央里がスマホで連絡や手続きを始めて、他の面々は
マルグリットがカレナにちょっかいを出し、ソファの上でじゃれ合っている。
セントリー警備会社で交通誘導などの日銭を稼げる仕事が減って、古株の警備員たちが不満を募らせていた。
そういうわけで、お前らは異能者で戦えるのだからと、厄介払いされた
退魔師の互助会やスポンサーによる福利厚生の一環で、形が変わっただけに過ぎない。
所属しているだけで最低限の給料をもらえるが、有事には率先して怪異と戦う。
例えるのなら、軍の予備役に近い。
「それで、俺たちの同僚は誰だ?」
詩央里は慌てて、スマホの画面を呼び出す。
「えーと……。
面倒がなくていい。
それぞれの探偵事務所は、属性による区分けでもあるわけか。
「古浜さんが、そのままスライドか……。いや、嬉しい知らせだけどさ?」
俺が言ったら、詩央里も同調する。
「はい。古浜さんは話が分かる方のため、安心して勤められます!」
◇ ◇ ◇
「じゃあ、古浜探偵事務所の門出を祝って!」
「「「かんぱーい!」」」
築40年以上の雑居ビルに、急ごしらえの探偵事務所があった。
1階に居酒屋、大陸料理屋、洋食屋のテナント。
目立つ看板が並んでおり、居酒屋はまだシャッターが下りている。
広い歩道に面しているため、そのまま店に入ることが可能だ。
2階から4階は、1フロアー丸ごとの物件だ。
両端に狭い階段が設置されていて、2階の飲食店の看板が出ている。
古浜探偵事務所は、一番上の4階。
依頼人に足を運んでもらえるように、主要駅の近くで徒歩3分。
入っているテナントの種類で分かる通り、繁華街の一部だ。
駅として治安が悪い方角の出口だが、俺たちは一般人にあらず。
念のため、南乃詩央里たちは女だと分かりにくい服装をして、出入りすることに。
道路側は大部分が窓になっていて、かなり明るい。
防犯の点では、
見るからに安い内装だが、雰囲気作りで茶色のフローリングを敷いている。
白い壁紙と合わさって、まあまあの仕上がりだ。
中古で揃えたオフィスデスク、チェア、ロッカー。
ホワイトボードに、ラックも。
黒い椅子による応接セットが、半ば隔離されるように設置されている。
「あたしは、沙雪だよ! 覚えているかい、
配達ピザを食べていたら、小さくて、青髪の少女が話しかけてきた。
「ああ、沙雪か!
ニマッと笑った沙雪は、黒に近いグレーの目で俺を見ながら、返事をする。
「まあね……。こちらは、あの2人のお守りだよ! 今は同じ千陣流だから、せいぜいヨロシク」
その視線の先には、小森田衿香に張り付かれている鍛治川航基がいた。
彼らにも挨拶したのだが、予想通り、奴には敵意がある。
多少はマシになったものの……。
俺の表情を見て、沙雪が付け加える。
「航基は別件で忙しいから、しばらくは重遠に絡まないと思う。もっとも、あたしは、航基のご機嫌取りのために、重遠と距離を置く気はない! 必要な時には、詩央里を通して連絡するから……。他の面々にも挨拶するから、これで失礼するよ」
それだけ告げた沙雪は手を振り、離れていく。
航基は詩央里や咲良マルグリットに挨拶したものの、そこからは衿香が露骨に
今でも、2人のほうを横目で見ては、やっぱり邪魔されている。
ギシッ
「重遠くん、楽しんでいるかい?」
古浜立樹が俺の横に座って、話しかけてきた。
「はい、古浜さん。……所長と呼んだほうが、いいでしょうか?」
1人だけ黄金色で泡が出るドリンクをぐいぐい飲んでいる立樹は、お客さんがいなければ、どちらでもいいよ。と返してきた。
「そういえばさ……。君のところ、
唐突な質問に、警戒しながら対応する。
「ええ。最近、ベルス女学校から……。リストで、漏れていましたか?」
「いや、そうじゃないよ……。あまり大きな声では、言えないのだけど――」
どうやら、これまで機動隊の一部だったマギクスを試験的に、刑事部などにも配属する案が浮上してきたようだ。
現職の刑事には全力で叩き潰したい話のため、かなり殺気立っているとか。
「そういうわけで、通常の事件を扱う一課、二課あたりは対象外になる! どっちみち、テストケースだからね……。結論から言うと、同じ警備のつながりで公安警察に配属させるって話が出ているんだ」
自分の考えを口にする。
「公安は元々が秘密主義だから、マギクスが配属されても大丈夫と?」
頷いた立樹が、理由を説明する。
「うん! ただし、装備を持ち歩くから、奪われることを前提に古い
防衛軍は徹底的にガードを固めているが、刑事は1人で街をうろつくし、あるいはトイレに置き忘れもあり得る。
というのも、
「マルグリットちゃんが良ければ、公安警察の刑事になる道もあるってこと! ただし、警察学校で数ヶ月の訓練を受ける必要があって、それ以外にも守るべき項目がある。職務上の機密を守り、貸与された被服・備品を返せば、いつでも退職することは可能だよ?」
疑問に思ったことを質問する。
「マルグリットが公安の刑事になった場合、俺たちへの守秘義務はどうなるので? それに、装備の持ち歩きの範囲と、具体的な身分は?」
「専門職の中途採用の扱いで、警察学校を出たら巡査部長! マギクス用の訓練だけど、ハコ詰め……じゃなかった、交番勤務や鑑識の真似事もやるよ? ただし、最低限の現場研修のみで、場合によっては省かれる。現場で変に揉めたら、かなり面倒だからね。そこは、ケースバイケース」
缶を傾けた立樹は、さらに
「守秘義務なんだけど、警察の身内であって身内じゃないから、元々の情報が大きく制限される。重遠くんの間でなら、問題ないと思う。外部に漏洩した場合には当然、処罰されるよ? 装備については、たぶん自宅に持ち帰れるんじゃないかなあ? 実銃はまずいけど、
美味そうにフライドポテトを食べた立樹は、俺の顔を見て、締め括る。
「公安警察の刑事については、署長レベルでも何をやっているのか、よく知らないことが多い。なにしろ、だいたいの指令は警察庁の警備局が直接出しているからね? たまに面倒な案件を押し付けられる代わりに、警察手帳を出せて武器を使えるし、何なら応援も呼べるってところか……。悪く言っちゃえば、警察が防衛軍に流れているマギクスを少しでも自分のところに確保したいわけ! 普段は飯を食わせておくだけの用心棒だね。非常時になったら、即座に命令して動かすと……。ほら? 大戦の前に、政府の要人が暗殺された事件があって……。
ま、考えておいてよ! とだけ言い残し、立樹は立ち上がった。
確かに、マルグリットを遊ばせておくのは、もったいない。
個人として
一般の警官ではなく動きやすい刑事なら、マルグリット本人に聞いたうえで、真面目に検討してもいいかな?
なお、あの巨乳で警察官は無理でしょ? という質問は受け付けていない。
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