第88話 むしろ俺のほうが敵の正体について教えて欲しい
――― 【5日目 正午前】 1年エリア 閉鎖区域 旧校舎の前
味方からの誤射を避けるために無線で連絡を入れた後に、玄関ホールから外へ出る。
すぐにアサルトライフルの銃口を向けられ、両手を上げたまま、本人確認を行った。
人に化ける前例が確認されたので、当然の対応だろう。
解放された後、人がいない方向に銃口を向けながら、
銃口を斜め下に向けながら、セイフティを外す。
リリース用のボタンを押して、マガジンを抜く。
次に、側面のチャージングハンドルや上部のスライドを引いて、
オープンの薬室を目視確認したら、トリガーを引くのではなく、手動か所定のボタンによって丁寧に戻す。
なぜなら、実銃で空撃ちすると、撃針が傷む可能性があるからだ。
最近のモデルでは、ライフルや散弾銃を除いて、基本的に空撃ちOK。
しかし、俺としては、あまり良い気分にならない。
最後に、抜いた弾をマガジンに詰め直す。
銃にマガジンを再び入れ、セイフティ状態にして、終わりと。
疲労困憊の俺たちは、仮設テントの中で椅子に座ったまま、1年主席の
「2人とも、ご苦労様! 君たちだけで、奴らの巣を吹き飛ばすとはね……。さすが専門家、と言うべきかな?」
冗談めかして言っているが、月乃の表情には、かなりの疲労が刻まれていた。
「心配をかけて、すまなかった……。月乃、そちらの状況はどうなっている?」
無理して笑顔を作った彼女は、俺の質問に答える。
「外には、数匹のエイが出てきただけ! でも、さっきの無線でうちの女子に擬態している化け物がいることを知って、急いで本人確認とその手順を作った次第さ……。そうそう、君たちのレコーダーを回収させてくれ! すぐに、分析と報告で使いたい。それから、今日の午後に行われるブリーフィングだが、当事者である君たちも出席してくれ」
衝撃的な内容だから、見る人間を厳選してくれと忠告しながら、風紀委員用の録画装置を渡した。
月乃の隣にいた風紀委員から、別のレコーダーを受け取る。
自分の仕事に戻ろうとした月乃は、振り向きながら、力強く言う。
「旧校舎の後始末は、ボクたちで行う! 君たちは、ゆっくり休んでくれ……。おそらく、この異変はまだまだ続くよ。戦力として有用な君たちは、休める時に休むべきだ」
言い終わった月乃は、俺たちの返事を聞く前に
――― 【5日目 正午前】 ゲストハウス 個室
ゲストハウスの個室に戻った俺は、毛布を敷いた机の上にPDWを置く。
弾丸のマガジンを取り外し、念のためにもう一度だけ、薬室をオープンに。
重いタクティカルベスト、上下の戦闘服、半長靴なども全て外し、軽くシャワーを浴びてから、
護身用にハンドガンのみ、腰のベルトにある
悩んだが、やっぱりアンロードで、薬室を空にしたまま。
同じく着替えた咲良マルグリットと一緒に、1年エリアの食堂へ向かう。
――― 【5日目 午後】 管理エリア ブリーフィングルーム
臨戦態勢のため、咲良マルグリットと2人で、ランチを済ませた。
1年エリアの食堂には色々なメニューがあって、俺はカツ丼の定食、彼女はハンバーグセットを頼んだ。
指定された時間に近づいたので、管理エリアのブリーフィングルームに入った。
正面に大型モニターがあって、教室を彷彿とさせる。
前方の
映画館のように、規則正しく椅子が並んでいる。
書類を置けるように折り畳み式のテーブル、カップホルダーもついている椅子で、まさにミニシアターだ。
よく見たら、2列目より後ろの席には、前の座席に小さなモニターがついている。
一番前の列で奥の席に、2人で並んで座った。
制服や戦闘服を着た人間がどんどん入ってきて、空いている席に座っていく。
定刻になったことから、ブリーフィングが開始された。
薄暗い部屋の正面にある大型モニターが見せているのは、話題の映画ではなく、俺とマルグリットが突入した旧校舎の一部始終。
ハンディカメラの撮影と同じため、上下左右に揺れ動く映像は、3D酔いを引き起こす。
事前に加工処理が行われ、ブレを抑えつつ、要点のみが示されていた。
パパパッ
天井の灯りが点き、白い光が映画館のような空間を衆目に晒す。
『以上が、1年エリアの旧校舎で発生した異常と、解決までの流れです。
将校の制服を着た
校長が、わざわざ出てくるとは……。
納得できないのか、ザワザワと、私語が始まる。
『静粛に! これより、実際に突入した風紀委員に説明をしてもらいます!! 室矢くん、お願いしますね? 咲良さんは、室矢くんの補助を』
校長の宣言によって、席から立ち上がった。
「はい。旧校舎における、状況の説明を実施します」
正面から隅に移動した校長と入れ替わるように、正面で立った。
並んだ椅子に座っている女たちの視線が、俺に突き刺さる。
ゆっくりと
『ご存じでしょうが、俺は紫苑学園から交流会でやってきた
そこまで話して、ゆっくりと部屋を見回す。
渡されたピンマイクのおかげで、聞こえていない人間はいないようだ。
『俺の専門は、今回のような魔術です! 結論から申し上げると、あの旧校舎には召喚儀式が
マルグリットが、明るくなった体育館の中に、画像を切り替えた。
俺の説明と映し出された風景によって、安堵する溜息が、そこかしこで聞こえる。
いくつか、挙手が見えた。
適当に選ぶと、その女子が起立する。
「その召喚儀式は、誰が、何を目的としていたのですか? また、他に仕掛けられている可能性は? 私たちも対応できるよう、効果的な対処方法を教えていただけると助かるのですが……」
無難な答えを選び、回答する。
『今回の犯行については、まだ調査中です! 他に同じ仕掛けがある可能性は、極めて高いと思います。最後の質問については、流派の秘密が含まれることから拒否します。
その女子は不満そうな顔だったが、着席する。
次の指名で、また別の女子が立ち上がった。
「旧校舎の中で遭遇した女子について、質問があります! 『化け物の擬態である』と判断した根拠を教えてください」
険しい顔をした女子を納得させるため、彼女に顔を向けた。
『第一に、彼女が古い制服を部分的に着用していたから……。第二に、氏名と認識番号で1年主席に照合してもらった結果、本人が別にいると分かったからです』
真剣な顔つきの女子は、立ったまま、質問を続ける。
「あなたは、『それが本人で、別の場所にいる人間が擬態』とは、考えなかったのですか? 間違っていた場合、あなたは
けっこう痛いところを突かれた。
実際には、遠隔で式神の
『旧校舎にいた本波さんは、服装の他にも、不自然な点がありました! まず、風紀委員の腕章をつけているうえ、自分に銃口を向けている兵士を見たのに、冷静な対応でした。それにもかかわらず、いきなり男をストレートに誘っています。彼女がパニックに陥っているのなら会話は成立しないはずですし、逆に正気なら俺を誘うこと自体があり得ません。以上の点から、人間の振りをした化け物だと判断しました』
俺の説明で、考え込む女子。
時翼月乃が、立ち上がった。
「1年主席の時翼だ! 確かに、重遠の判断は性急だったかもしれない……。しかし、『光学迷彩で姿を隠す化け物がいる』と、事前に分かっていたんだ。それに、ボクたち1年の部隊で外を取り囲み、空気弾などの魔法が飛び交っていた。警戒レベルも上がっている状況でキツめに判断するのは、仕方ないだろう……。突入したのがボクでも、同じ行動をしていたよ?」
「分かりました。丁寧に答えていただき、ありがとうございます」
月乃にハッキリと言われたことで、立っていた女子は一礼して着席。
それを受けて、月乃も座る。
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