で、誰が一番強いの?
クロウアリスの授業には座学、実技、教養などがあるが、その中にも必修科目と選択科目がある。スキルや家系によって将来設計が決まっている生徒も多くいるので、必要に応じており専門的な勉強ができるようにと、そういうシステムになっている。
ちなみに高等学院は4年制であり、学問の道に入るもの以外はそこから就職となる。
授業が開始されて数日が経った頃、実技の必修科目としてクラス全員が屋外に集まっていた。どんな進路の人間であっても、魔物のいるこの世界ではある程度の心得は必要である。
実技担当はテイレンス・ステファンという元帝国軍人だ。大きな傷をいくつも作った大柄の男性で、いかにもパワータイプの人だ。
準備運動の後、様々な武器を並べて、体格、スキルに合わせた運用の説明が行われた。
実際に名の知られた勇者や軍人が、どういった武器をどのように操っていたか、実演しながら授業が進む。
「例えば漆黒の勇者は【特急身体強化】だ。ここにある武器よりももっと大きな斧を振り回すことが出来る。一方で紺青の勇者は【瞬天】だ。一瞬で後ろを取ったとしても、ゆっくり斧を振りかぶっていたら意味がないよな。だから軽い武器が好まれる。黄金の勇者は【予知】があるから防御に優れ、盾を持たれたらまず攻撃は当たらない。よし、刃は落としてあるから、実際に触ってみろ」
そうしてみんなで武器を手にとって実際に振ってみる。ナイフだけでもいくつか種類があり、剣に至っては10種類以上並べられている。
ステファン先生は教師を名乗るだけあって、様々な流派の知識があり、生徒の質問に細かく対応していた。
生徒の間でも話は盛り上がる。槍使い最強と言われた帝国軍人。7種類の武器を使いこなした冒険者。歴代最強と名高い勇者。
ここで、漆黒の勇者アシュリーの幼馴染、クレイアが放った一言がすべての始まりとなった。その言葉は、隣にいた女子生徒に向けられたものであったが、元気が取り柄のクレイアの声は全員の耳に届いた。
「で、誰が一番強いの?」
◇◆◇◆◇
「第1回!1年1組最強決定戦!!」
ステファン先生の声に生徒から大きな歓声が上がる。クレイアの一言が呼び水となって、あちこちで誰が強いかという議論が沸き起こった。【瞬天】か【特急身体強化】か、いや【予知】には勝てないだろうetc……。
先生自身、興味があったのだろう。それなら実際に戦ってみようという事になった。
魔法使いや戦闘の心得のない者を除いた12名が参加。トーナメント制となり、勇者4人がシード枠で残り8人が1回戦から。これでちょうど12人で綺麗なトーナメントとなった。
1回戦は勇者以外の戦いだ。
拮抗した戦いが繰り広げられる中、1番の盛り上がりを見せたのがトレイシル・アンダードとギル・アイザックの一戦だ。
トレイシルは言わずとしれた首席生徒。といってあくまで総合1位というだけで、ヨールヨール王国の剣術大会では紺青の勇者ファナンに破れている。
一方ギルはレブライトと寮で同室であり、帝国貴族アイザック子爵家の親戚筋だ。アイザック家は多くの軍人を排出した名門で、ギル自身、近衛として皇族に仕えることを目標としている。親が帝国軍で第2軍団副隊長をしているため、宮殿への出入りが多く、レブライトとは以前から何度か会ったことのある仲である。
槍を扱い攻撃的なトレイシルに対し、ギルは剣と盾を用いた守りの型を得意としていた。剣と盾はどうしても射程が短くなってしまうので、獲物の長いトレイシルは間合いに入らないよう慎重に攻撃を加えていた。ギルとしても反撃に出たいが、我流であるトレイシルの槍術は次の一手が読めず、攻めあぐねる時間が続いた。
お互いスキルは温存しているが、レベルの高い応酬に観客も盛り上がる。
先にしびれを切らしたのはトレイシルの方だった。右方向にくるっと一回転すると、遠心力を利用して勢いよく槍を盾に叩きつけた。ギルは盾をはじかれて体勢を崩す、そこへ間髪入れずにトレイシルの槍が襲いかかる。
その穂先がギルに届こうとした瞬間──まるで透明な壁が存在するかのように阻まれた。
「んあぁ!?」
トレイシルが素っ頓狂な声をあげる。直後、ギルの剣が喉元まで突きつけられ勝負が終わる。
「やられたなぁ。面白いスキル持ってるね」
「使いたくはなかったんだが……」
勝ったギルの方が負けたような顔をしている。
「【完全防御】。一日1回だけあらゆる攻撃を防ぐ事ができる」
「初見殺しじゃん」
「使用制限があるから、極力使いたくないんだ。これで今日一日、スキルの無い人間になる」
絶対的な性能を誇るが、使い所を考えないと生命に関わる。先程の戦いも、スキルを把握されていたらトレイシルの勝利になっていたかもしれない。
こうして1回戦は終了。
続く2回戦だが、スキルを使用してしまったギルはアシュリーに敗北。その他も勇者が持ち前の能力を見せつけて勝利を果たし。予想通り、勇者同士の準決勝が決定した。
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