ダンジョンだからって戦わなきゃいけない決まりはないと思う
テケリ・リ
序章 俺は死んだらしい。
第一話 神様って居たんだ。
その日、俺は死んだらしい。
行きつけのスナックで起きた喧嘩を止めようと、間に入って説得を試みたんだ。
それなりに仲良くしてもらっていた常連客の歳上の男性と、初来店であろう若い一見の男性客2人組。
きっかけは何だったか……
ああそう、スタッフの女の子に気があったのか、グイグイと話し込んでいる横から、常連客に割り込まれたのが気に入らなかったらしい。
個室でもなく、キャバクラのような個人接待でもないスナックで女の子を独占しようとする方が頭おかしいのだが、酔いも手伝った若い彼らの理屈はいかにも身勝手で、それに触発されてか常連の男性もヒートアップしてしまっていた。
「ちょっと、喧嘩しないでよね!」
スナックのママが止めようと必死に声を掛けるが何処吹く風で。
挙句カウンターの椅子を蹴り倒し、向かい合って胸倉まで掴み合う始末。
スナックで絶賛ひとりカラオケ(笑)を嗜んでいた俺も見かねて、慌てて先ずは見知った仲の常連の男性を止めようと頑張って間に割り込んだ。
頑張ったんだよ。俺基本小心者だし。けれど。
彼なら話せば解ってくれるし、口直しに他のお店に連れ出して落ち着いてもらおうと思い、若い2人組に背を向けたのが不味かったようで。
「どけやこの野郎っ!!」
――衝撃と何かが割れて砕けるような音。
グラつく身体で咄嗟にカウンターテーブルに寄り掛かり、背後を振り向くと手に割れた酒瓶を持つ2人組の片割れ。
辺りに飛び散った硝子片と酒。
後頭部の違和感。
手をやってから顔の前に持ってくれば、べっとりと付着した赤より深い紅。
――ちょっ……中身入りの酒瓶はダメだって――
そんな呑気な言葉は浮かびはしたが声にならず、そのまま視界は暗くなっていった。
「で……ここどこ?」
はい。冒頭に戻りましたね。
目を開いて最初に飛び込んできたのは白。
それはもう真っ白。
周囲遍く全てが白。
うん、確かに病院のイメージカラーは白だけど、これは流石に逆に病むよってくらい全部が白い。
というか何も無い。
その真っ白な空間に、ポツンと俺が横たわっていた。
上体を起こし身体を見る。
うわ、真っ赤じゃん。
パーカーもTシャツもズボンも、夥しいドス黒い赤で染まっていた。
「んー。ということは、殴られたのは現実か。」
思わず後頭部に手を触れるが、ごわついた血に濡れた感触は感じるも、そこがパックリ割れているということはなかった。
「えーどゆことー? あの世? 天国? 地獄? 病院では……ないよね?」
うん、ヤバい。面白いくらいに混乱してる。
身体は……動くし、立ち上がれる。
飛び跳ねれるし、触覚は確認済み。
服から濃い血の匂いもするから嗅覚も正常。
手に着いた血を少し舐めて見る(ばっちい)が、味覚もある。
ちゃんと目も視えているし、声を出せば聴こえる。
「え……ちょ……何も無いし、誰か居ないのー?」
周囲の何も無い空間に力なく声を漏らす。
ヤバい。泣きそう。
「ちょっとー! 誰か居ませんかー?!」
割と必死に声を張り上げてみても、木霊する訳でもなく俺の声は周囲に溶けて消えていく――
『はーい! 今行きますね〜』
と思ったらどこからか返事がきた。
その返事と共に、真っ白だった俺の目の前に周囲の白も霞むほどの眩い光が集まり、輝き、ひとつの形を作っていく。
光が集まったそれは、徐々に形を変え人の形になった……かと思えば俺と同じくらいの背丈から段々と縮んでいき――
『お待たせしました〜♪ 実に49時間23分38秒振りに非業の死を遂げた魂さん♪』
――俺の腰くらいの背丈の、非常に愛くるしく可愛らしい幼女になった。
「………えぇー……」
うん、我ながら中々の困惑具合だ。
『おやおや、困惑してますね〜。大丈夫ですかー? 視えてますかー? 聴こえてますかー? どっか痛いですかー?』
必然的な上目遣いで近寄り、ぴょこぴょこ動きながら俺の顔や身体をキョロキョロと眺め回す幼女。
かわいい……けど! 先ずは質問だ! 落ち着け俺! 俺は正常! そういう嗜好はない……はず!!
「う、うん、まあ……身体は大丈夫、だと思う。それで、君はいったい……?」
なんとか声を絞り出し、幼女に応える。
『それは何よりですー♪ 私ですか? 私は神様でーす☆』
くるっとターンして目元に横ピース☆ な幼女。あざとくウィンクまでしてポーズを決めている。
「そ、そうかぁ神様かぁ……」
うん、神様って居たんだ……幼女だけど。
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