第14話 中間テストという試練
いじめの件も片がつき、
桔花も入部して、
ようやくこの部活で過ごす日々に
慣れてきた頃に、突如、
それは降りかかってきた。
「先輩方って、
勉強するの好きなんですか?
こんなに早くから勉強なんてして」
今日は二年生の先輩二人と桔花は、
用事で部活を休んでいて、
部室内は三年生三人と僕一人だった。
そしてその状況で、
三年生の三人が皆揃って、
勉強をしている光景を目にして、
そんなことを言った。
すると、その問いには
那月先輩が答えてくれた。
「あ、そう言えば、言い忘れてたね。
風紀部のこの好待遇と特権は
学業や素行・態度のお陰なんだ。
具体的な条件としては、
定期テストで部員全員が上位百位以内に入り、
なおかつ、部員の半数以上が科目別で
一つでも上位五十位以内に入ること、だよ」
背筋の辺りからゾワリと、悪寒がした。
「すみません、
僕に勉強を教えてください」
頭を下げて、教えを請うことにした。
危機感は
勉強したくない気持ちに勝ったのだ。
急なお願いにも関わらず、
那月先輩は嫌な顔一つせず、
僕に聞き返してきた。
「何の教科、科目?」
僕はどちらかと言えば文系だが、
得意なのは国語くらいで、
他はあまり得意ではない。
中でも苦手なもののと言えば、
「数Aと英語文法をお願いします」
この二つだ。
数学は数学でも、
数Ⅰはそれなりにできるが、
数Aはどうにも不得手で、
図形関連は壊滅的にできない。
対して英語文法は、
中学のときから抱いていた
嫌悪感が拭えず、未だに嫌いなのだ。
できない奴の言い訳と分かっていても、
言いたくなる。
英語なんか使わないし、
学校で習ったくらいじゃ話せないよ!
そもそも、英語とは波長が合わない。
日本語でも、意志疎通が苦手だと言うのに、
誰彼構わずノリよく話せ、
という方が無理な話だ。
それに、授業で扱われる
英語の会話や場面は、わざとらしいものか、
ノリが軽いものが多い。
だからこそ、英語とは
一生分かり合えないと自負している。
僕の英語嫌いはさておき、
那月先輩は
テキパキと話を進めてくれていた。
「じゃあ、俺が英語を教えるから、
立夏は数学の方を見てあげて」
凌先輩の方へも一瞥してみるが、
別段、嫌がる素振りも見せず、
了承してくれた。
「了解」
少しずつだけど、
みんなと距離を縮めているように思う。
この調子で先輩たちともっと、
親しくなれたらいいな。
「じゃあ、教科書とノートを持って、
こっちに来てね」
しかし、ふと気を許してみれば。
「はい、ありがとうございます。
今から取りに行ってきますね――」
椅子の脚に足を引っかけ、
躓きそうになり反射的に、
近くに座っていた
佐渡先輩の肩を掴んでしまった。
「っ…………!」
勿論、その手はすぐに振り払われた。
そのまま転倒するまでには
至らなかったが、僕の心は傷ついた。
潔癖性だとは分かっていても、
精神的にダメージを受けてしまう。
きっとそれは、
親しくなりきれていないことの証拠だから。
「佐渡先輩、すみません!」
僕は目一杯頭を下げて、必死に謝罪をした。
僕も悲しいが、
佐渡先輩にとっては苦痛なのだから、
謝るのは当然だ。
僕のように、彼の心だって、傷ついたはず。
しかし、佐渡先輩は怒ったりはしなかった。
ただ、静かに、
「別にいいけど、次からは気をつけて」
と呟くだけだった。
言わずもがなだが、
僕が触れてしまった肩は
アルコールスプレーで除菌された。
少しは気を許されているのか、
全くもってそうでないのかの
判断基準が分かりにくい佐渡先輩であった。
ちなみに、この後で、
教科書とノートを取りに行き、
二人に勉強を見てもらいながら、
きちんとテスト勉強をした。
先輩たちに教えてもらったことだし、
風紀部の品格を保ち、
ここにいるためにもテスト勉強を頑張ろう。
そして、中間テストの
一週間前から部活動は休止となり、
各の自宅や図書室に残って、勉強を続けた。
また、中間テストは
今月の二十五日から三十一日の間に行われた。
その結果……
「最低条件と科目別条件クリアできた!
良かったぁー」
真面目に勉強した甲斐あってか、
僕個人としての成績でさえ、
なかなか良好なものだった。
「よく頑張ったね、えらいえらい」
那月先輩は優しい眼差しで、
僕の頭を撫でてくれた。
「なんか、複雑です……」
「もしかして嫌だった?
俺、下に小さい妹がいるから、
つい、癖でやっちゃった。ごめんね」
那月先輩の表情が萎んでいく。
「い、いえ、
そういうわけじゃないんですけど、
子ども扱いされてるのかなって」
「そんなことはないよ。
褒めた方が成長を促すって聞いたから、
そうしてるだけだと思う。
それに、褒めてもらったら
大抵の人は嬉しいんじゃないかな」
褒めることについて語っている那月先輩は、
いつもよりお兄さんっぽく見えた。
「そうですね。
褒められて嫌な人はいないと思います。
恥ずかしいは恥ずかしいですが」
ほのぼのした会話を
那月先輩と二人で繰り広げていると、
凌先輩が話題を振ってきた。
「そういや、みんなの
中間テストの結果はどうだった?
那月から順にどうぞ」
いきなり自分の番が回ってきたことに
驚いた様子もなく、
慣れた口調で結果を発表した。
那月先輩、切り替え早いな。
「えーと、総合学年順位は三十位で、
科目別順位で五十位以内だったのは、
英語Ⅲが二十八位、現代文十九位かな」
備考、文系は強いが、
理数系、特に数学がめっぽう弱い。
さらっと言ったけれど、
なかなかな好成績ではないかな。
さっき、自分でなかなか良好だとか
言っていたことが恥ずかしい。
身の程知らずなうえに、
天狗になっていたのだと知らしめられた。
ま、まあそれでも、
普通よりは幾ばくかいいはずだ。
僕らの高校は公立の共学校だ。
全学年共通して、七クラスある。
一クラスあたり、約四十名だから、
一学年の生徒数はおよそ二百八十名となる。
他の高校よりもクラス数が少ない故、
生徒数も少ないが、
それでも学年で
五十位以内に入っているというのは、
それなりに優秀なはずだ。
さらに言えば、
風紀部に所属している先輩たちは、
五十位以内の関門を
クリアし続けてきた猛者だと言える。
さて、
次に答えたのは佐渡先輩だった。
「俺は、総合順位が八十二位で、
科目別順位で五十以内は、日本史の八位だ」
那月先輩ほどではないが、好成績だ。
日本史なんて、一桁の順位なのだから。
それでこの順位なら、
相当差が激しいのだろう。
備考、社会の中でも
日本史だけが異様に得意。
と、くれば、次は凌先輩の番だ。
もう二人の好成績っぷりを
聞かされているので、驚きはしないだろう。
「僕は、総合が十位で、
科目別の五十位以内は、
数学Ⅲの六位と生物一位かな」
凌先輩はへへっ、
と照れくさそうに頬を掻いているけれども、
僕はそれどころではない。
何だそれ。
こんな近くに天才的優等生がいたなんて…
生物一位とか、あり得ない。
しかも、総合十位って不得意科目なしか。
心の中で突っ込まずにはいられない、
神成績だった。
備考、オールラウンダー、
もはや超人の領域。
「私は、総合順位五十位だったよ。
科目別で五十位以内なものはなかった」
あんまり良くないのかと思いきや、
寧ろ、良成績だった。
突出していいものがないのに、
この順位を取れるということは、
バランスよく
勉強ができるということなのだ。
偏りがあるよりも、
全分野に対応できて羨ましい。
さすがは、プリンスなだけあるな。
プリンスの名は
伊達ではないということか。
「うちは、総合順位九十三位で、
五十位以内はなし」
あれ、ちょっとわる……違う、違う。
風紀部の基準が
高すぎるからそう思うだけで、
並よりも上だ。
普通ってなんだろうと思えてくる。
次は、聞かなくても大体は分かる。
五十位以内はくだらないだろう。
「あたしは、総合二十九位で、
科目別では、英語文法が二十位でした」
ほら、やっぱり。
桔花は中学の頃から成績がよかったのだ。
備考、桔花は昔から要領がいい。
「僕は、総合順位四十七位で、科目別では、
現代文が十八位と古典が三位でした」
備考、国語系統は得意。
二人に勉強を見てもらうことや、
危機感を覚えるなど、やる気がなければ、
百五十位前後は免れなかっただろう。
僕は、やればできるけど、
エンジンがかかるまでが長く、
かかりにくい、という面倒な性格だ。
ちなみにこの後は、
テスト条件クリアということで、
部員全員でお菓子パーティーを楽しんだ。
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