告白付きのチョコレートなんて恐怖そのものだ!

タマゴあたま

告白付きのチョコレートなんて恐怖そのものだ!

「ユウキ先輩、私のチョコ受け取ってくれますか?」


 目の前の女の子は頬を赤らめ、上目遣いで尋ねてくる。

 僕のことを「先輩」と呼ぶことと上履きの色から察するに、一年生のようだ。それなら僕のことを詳しく知らなくても無理はないな。


「僕はチョコレートが苦手なんだ。だからそれは受け取れない。気持ちはありがたく受け取っておくよ」

「そうだったんですか……。でも頑張って作ったんです。受け取るだけでも出来ませんか? 友達や家族にあげちゃっても良いので……」


 そんな泣きそうな顔をされちゃうと心が痛む。


「わ、わかった! 受け取るから泣かないで。でも今回だけだよ」

「本当ですか!」


 彼女の顔がぱっと明るくなる。


「じゃあ、来年は別のお菓子作ってきますね。好きなお菓子って何ですか?」

「うーん、クッキーかな」

「わかりました! 来年こそ快く受け取ってもらいます!」


 そう言って彼女は去っていった。泣かせずにすんでよかった。

 チョコレートが苦手なのは本当だ。小さい頃からバレンタインの日にはたくさんのチョコレートをもらってきた。そのたびに全部食べていたらチョコレートが苦手になってしまった。だからといって、チョコを受け取らなかったら相手を悲しませてしまう。


 僕にとって告白付きのチョコレートなんて恐怖そのものでしかない。


 さて、このチョコをどうしようか。

 そんなことを考えながら教室に入る。


「よお、ユウキ。今年は何人の女の子を泣かせたんだ?」


 僕のとなりの席の男の子がニヤニヤしながら話しかけてくる。親友のリョウだ。


「人聞きが悪いなあ。リョウ。誰も泣かせてないよ」

「お前は幸せ者だよなあ。チョコもらえるんだから。俺なんて毎年一個もなしだぞ」

「ごめんね」

「なんで謝るんだよ。しかも、謝られたって嫌味にしか聞こえねえよ」

「あ。ユウキ来たんだー。今、バレンタインの友チョコ配ってるんだ。ユウキは特別にクッキーだからね」


 幼馴染のユリだ。ユリは僕がチョコレートが苦手なことを知っている。


「なあなあ、俺の分は?」

「あんたの分はないわよ」

「なんでくれないんだよー。毎年もらえてないの知ってるだろー。義理でも良いからチョコくれよー」


 リョウがいじけちゃった。


「俺がチロルチョコでもおごってやろーか?」


 クラスの男の子が茶化すように言う。


「うるせー。男からもらったってしょーがねーよ」

「今年こそ誰かさんからもらえるでしょ。誰かさんから」

「なんの慰めにもなってねえよ、ユリ。ん? ユウキ、それチョコだよな。バレンタインでもらったやつか? 頼む! もうそれでいいから俺にくれ!」


 僕が持っているチョコレートにリョウが手を伸ばす。


「これはだめ!」


 僕はとっさにチョコレートを頭上に掲げる。


「なんでだよ。お前チョコ嫌いだろ? だったらくれてもいいじゃんか」

「ほ、ほら。くれた女の子に悪いじゃん」

「じゃあお前が食べるのか?」

「それは……」

「ほうら! 食べないんだろ! くれよー!」

「とにかくリョウにはあげない! ユリにあげる!」


 僕は手にしていたチョコレートをユリに渡す。


「あら、私への愛の告白ってこと?」


 ユリがいたずらっぽく笑う。


「そんなんじゃないよ!」

「もういいよ。どーせ俺には誰もチョコをくれないんだ。俺のホワイトデーの予定はいつだって真っ白ですよーだ。お。今の上手くない?」

「心底どうでもいいわ」

「ユリ、お前オブラートに包むって知ってるか……?」

「リョウはチョコほしいの?」

「当たり前だよ! バレンタインで女の子からチョコをもらうってのは男の夢だぜ! ユウキには理解できないかもしれないけどな」

「そっか……。もしかしたらリョウの夢が叶うかもしれないよ」


 僕はカバンから包みを取り出しながら言う。


「なんだよそれ」

「ハ、ハッピーバレンタイン! リョウ、これ受け取ってくれる?」


 バレンタインに、が男の子にチョコを渡している。

 この意味がわからないほどリョウも馬鹿じゃないはずだ。

 今年こそ渡すって決意した。それなのに。

 何でもない動作なのに、何でもない言葉なのに、どうしてこんなに緊張するんだろう。

 返事が怖くて顔が上げられない。

 やっぱり、僕にとって告白付きのチョコレートなんて恐怖そのものでしかなかった。


「ホワイトデーは覚悟しとけよ。三倍返しじゃ済まないからな」


 リョウの笑顔を見るまでは。

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