マルチタスクのプロ

「時間・効率を徹底的に極め、無駄を省く!」


 あるところにマルチタスクのプロと呼ばれる人間がいた。マルチタスクのプロは普通の人が一つのことにしか集中できないことを三つも四つも同時に集中してこなすことが出来てしまう。

 マルチタスクのプロは片手で学校の宿題をしながら、もう片方の手では器用にスマホを使ってソーシャルゲームをやる。

 ダンジョンに行ったりガチャを引いたりするのだ。両足を使って器用にパソコンを使う。

 そのパソコンで小遣い稼ぎのためにちょっとした仕事をこなしてしまう。マルチタスクのプロは一分一秒も時間を無駄にしないのだ。

 そんなことを同時に何度もこなすということは1日で他の人よりも3日や4日分多く生きていることと同等なのだ。

 とにかくマルチタスクのプロは時間にも厳しくて、常にどうやったら効率的に生きていけるかというのを考えて極めている。

 ある日からマルチタスクのプロは目を鍛え始めた。


「目が! 目があああ!!!」


 目から血を流しながら一生懸命片方ずつ目を動かす訓練をした。そしてとうとう目を片方ずつ独立して違う方向に向けるようになった。

 これでマルチタスクのプロはできることの幅が広がった。


「目の方もかなり慣れてきたな」


 そしてマルチタスクのプロは片方の目で映画を見て、もう片方の目でドラマを見始めた。


「くぅぅぅぅ! ギョロギョロ目ん玉ギモヂィィ!」


 そして別個でちゃんと見た作品の内容を理解している。もちろん映画やドラマを見ている時も手では勉強を欠かさずやっている。

 そしてもう片方の手はソーシャルゲームをやっている。マルチタスクのプロはもちろん寝ている時も何かをやっている。


「ぐがああああ!!! ZZZ…」


 寝ている時は無意識で手や足が動いている。もちろん寝ている時は片手で勉強ををしている。

 もう片方の手でソーシャルゲーム。両足はパソコンで仕事をしていた。寝ている時にも起きていることと同じことをこなしている。

 ここまでいったら、もはやロボットと言っても過言ではないのかもしれない。あらかじめ組み込まれたプログラムをこなすかのように休んでいる時も何かをやっているのだ。


「ベェー! いってぇ!」


 次にマルチタスクのプロは舌を鍛えを始めた。舌を鍛えたことによって、舌も自由自在に動かせるようになった。

 舌を伸ばして電気の電源をつけたり消したり、エアコンをつけたり消したりできるようになった。

 その他には舌をホウキに巻きつけて掃除をしたりもできるようになった。マルチタスクのプロは一人でなんでもこなしてしまう。

 家政婦なんてものもいらない。自分で勝手に仕事をして、自分で勝手に遊ぶことができる。

 毎日やることが多い環境で生きていたからこそ、こんな芸当ができるようになったのだ。


「あー、頭が気持ち良くなってきたぁ~」


 もはや他の人とは脳みその構造も違う。脳みそが2個も3個もあるんじゃないかと疑われるほどだ。

 マルチタスクのプロはどんどん効率を上げていくべく、身体を改造したいと言い始めているらしい。

 とにかく腕とか足とか手とかも増やしたいと思っている。そのためにマルチタスクのプロはその分野の勉強を始めた。

 そして目や耳といったものを複製して、自分の体につけようということを目論んでいる。

 これは何もかも他の人よりも欲張って良い人生を送りたいという想いからだ。ただ、ご覧の通りマルチタスクのプロにゆっくりしている時間なんていうものはない。

 ゆっくり休んでいる時間なんて1秒もないのだ。これはある意味、不幸なのかもしれない。


「あー超忙しいけど、その分人生もちょうど楽しい~」


 どうやら本人は充実した生活を送れていると感じているらしい。考え方は人それぞれだ。

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