冷蔵庫に入るバカ

 体がだるくてなかなかバイトに行けない。まるで自分の背中に根が張ったように布団から体が動けなかった。


「くそ! 動いてくれ、俺の体!」


 だが体がだるくてなかなか動けずにいる。どうやら昨日は少し飲み過ぎてしまったらしい。

 昨日は友達とお酒でワイワイして、家に帰るのがすっかり遅くなってしまったのだ。

 そしてバイトへ行くギリギリの時間に起きたという訳だ。


「俺はバイトに行かなくちゃいけないんだ! じゃないと遊ぶお金が稼げないじゃないか!  本当に働くっていうのはつらいよなぁ…」


 体を無理矢理起こしてバイトへ向かうことにした。


「いやー本当にバイトとかまじでだるいわぁー。もう、すぐにでもバイトを辞めたいんだけどなぁー」


 なんてブツブツと言いながらバイトへ向かっている。その時だった。バイトに向かっている途中に空き地があるのだが、冷蔵庫が不法投棄されているのを発見した。


「冷蔵庫の不法投棄かー。この前はなかったんだけどなー。もしかして冷蔵庫の中に人が入ってたりしてなあー。まあそんなわけないよな」


 そのまま空き地の前をスルーしようとした時だった。ドンドンドン!と冷蔵庫の中から誰かが叩く音がする。


「おいおい嘘だろ…? 本当に冷蔵庫の中に人が入っているんじゃねえだろうなあ…?」


 ドンドンドン!とまた内側から冷蔵庫を叩く音がする。


「おいおい、これはさすがにまずいだろう」


 自分は空き地に入ってすぐに不法投棄された冷蔵庫を開けることにした。


「え…」

「ぜぇ…ぜぇ…」


 パカッと開けると死にそうな2人組が冷蔵庫の中から出てきた。


「ほ、本当に死ぬかと思ったよ」

「お前らバカか! 冷蔵庫に入るなんて何を考えてんだよ!」


 バイトに行く途中の男は真剣にめちゃくちゃキレていた。


「すいません。冷蔵庫に入ったら涼しくなるかなと思ったんですよ」

「今日暑いですからね」

「何バカなこと言ってんだよ! 俺が助けなきゃお前ら死んでたかもしれねぇんだぞ!」

「ご、ごめんなさい…」


 バカ二人組は泣き出してしまった。


「まったくしょうがねえ奴だな。もういいよ、お前らさっさと帰れ。俺も急いでるからよ」

「すいませんありがとうございます」


 そのままバカ2人組はどこかへと行ってしまった。


「たっくよぉ、これからバイトだってのによぉ…」


 男はぶつぶつと文句を言いながらバイト先の飲食店へと向かったのだった。そして程なくして到着する。


「すいませんちょっと遅れてしまいました 」


 すると店長が出てきた。


「今日はもう閉店だ」

「何かあったんですか?」

「なんかな、馬鹿な奴が冷蔵庫に入って危うく死にそうになってたんだよ」

「嘘でしょ…。こっちもですか」


 じゃあ俺は今日なんのためにバイトに来たんだよ。これだったらバイトに行く必要なかったじゃないか。


「まあそういうことだから、とにかく帰った帰った」

「そ、そうですか」

「今日はもう閉店なんだよ。冷蔵庫に入ったバカにはきっちり説教してやらねぇとな」

「しょうがないから帰るか」


 男は帰る支度をし始める。そして店を出ていった。


「いやー、今日は本当についてない1日だな」


 そしてまた空き地の前を通った時のことだった。ドンドンドン!ダンダンダン!とまた冷蔵庫の内側から叩く音がする。


「今日は一体何なんだよぉ! 」


 急いで冷蔵庫開けた。すると今度は違う2人組が出てきた。


「お前らバカじゃねえのか!?」

「すいません」

「もうめんどくせえから帰れぇ!」

「あい分かりました。帰ります」


 そうするとバカ2人組は帰っていった。


「ああ、本当に今日はあんまりよくない一日だったなぁ」


 だが、この男のおかげで冷蔵庫に入ったバカ4人を救うことが出来たのだった。もしあの時バイト先でバイトテロ的な事が起こっていなかったら、帰宅するという選択肢はなかったので冷蔵庫に入ったバカ2人組は死んでいたかもしれないのだ。

 1日に4人の命を救うというのは立派なことだ。



……………………………………


 そして夜のことだった。


「なんか嫌な予感がする」


 もう一度空き家に行ってみると…。ドンドンドン!という音が響きわたっていた。


「いい加減にしろぉ!」


おしまい

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