脇ポケット

「ねぇねぇ聞いてくれよ!」

「どうしたんだい? アホ」

「アホとは失礼なやつだな。まあそんなことは良いんだよ」

「どうせお前のことだからまたアホなことを考えているに違いない」

 このアホは、いつもビックリ仰天なことをやらかすのだ。今日は一体どんなことをしてきたのだろうか。


「なんと!」

「うん」

「脇が」

「うん」

「ポケットになりましたー!わーパチパチパチパチ!」

「ええ、なんだって? もう一度言ってくれないか?」

「だ・か・ら!脇がポケットになったんだって!」

「おいおいおいおい。一体なんの冗談を言っているんだい?」

「え、疑ってるの?そんなに言うなら見せてあげるよ」

 そういうとアホが、びろーんとした脇のポケットを見せてきた。本当に脇がポケットになっていてびっくり仰天した。しかも両脇がポケットになっているのだ。


「この脇ポケットものすごく便利そうで羨ましいでしょ」

「いや、ぜんぜん。全く羨ましくない。むしろ気持ち悪い」

「これでカツアゲされても大丈夫だよね! 飛んでみろよって言われてもこれでお金の音が鳴らないよ!」

「そうだね」

 もう話に付き合うのも、めんどくさくなってきたのだった。今日は暑い夏の日だった。こいつと一緒にいると暑苦しくてたまらないのだ。


「もっと褒めてよ! 脇がポケットになってるんだよ!」

「え、いや。もう関わらないで」

「褒めろよ!」

 ここでふと、ある疑問が沸いた。カンガルーのポケットはとっても臭いみたいな話を聞いたことがある。もしかしたら脇のポケットも臭いのではと思った。


「えーん、しくしくしく36」

「くだらないな」

「とりあえず脇ポケットの感想を聞きたいんだけど。どう思う」

「うーん、そうだな。臭そうだなって思う」

「え?」

「今って季節が夏じゃん」

「うん」

「脇ってものすごく汗をかくよね」

「う、うん…」

「お前、ちょっと脇のポケットのにおいを嗅いでみろよ」

「ぜ、ぜんぜん良いけど!? ちょっと待ってて!」

 そういうとアホは自分の脇のポケットのにおいを嗅ぎ始めた。


「どんなにおいがした?」

「脇から地獄のような臭いがしました…」

 思わずアホはゲロ吐きそうになっていた。


「本当にどうしよう。これからどうやって生きていけばいいんだろう」

「そのポケットを脇からなくしちまえば良いんじゃないか?ポケットのなかに汗がたまるのも大変だろ」

「カツアゲ対策のためだけに作ったけど、もうポケットなくしちゃおっか…」

 アホはとてもガッカリしていた。そして次の日…


「おはよう!」

「おはよう」

「今日も暑いね!」

「だね」

「そういえば脇ポケットなくしたんだ。」

 そう言うとアホは脇を見せてきた。本当に脇ポケットがなくなっていた。


「良かったな。これで地獄のような臭いから解放されたな」

「うん! 快適になった!」

 後日、アホは脇ポケットをなくしたせいでカツアゲをされた時にお金を取られたのだった。

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