第16話 ホワイトロータス

気がつくとそこはベットの上だった。


「マサルさん!…良かった…気がついたのね!」


ベットの側にルルカの母親がいた。

少し疲れているようで、俺の事をつきっきりで見ててくれてたらしい。


「俺は…生きてるのか?」


「何言ってるのよ!ちゃんと戻ってこれたじゃない。」


「そうか。そうだよな!」

俺たちは邪神に打ち勝ったんだ。


「女将さん、みんなは?」


「安心して、トレカちゃんのおかげでみんな回復したわ。今はお店を手伝って貰ってるよ。」


「安心したぜ。無事に帰ってこれたんだな。」

目から大粒の雫が溢れる。


キュッ

女将さんがハンカチで俺の涙を拭いてくれた。


「貴方はすごい。あの邪神ターミナル相手に善戦したのだから。」


「女将さん…?」

先程と口調が全く違う。よく見ると目の色が金色に変わっている。間違いなく別人だ。


「遊導 勝さん、やっとお会いできましたね。初めまして。

『ホワイトロータス』と言います。この世界では実体化出来ず、今はこの方の体を借りているのです。」

彼女は俺に向けて頭を下げた。


ホワイトロータス…………確か、エルーマが言ってた人物だ。

「あんたは何者なんだ?」


「私はグリフォン・k・ブロイラーの願いを受け、カードと化した精霊です。」


グリフォン・k・ブロイラー…知る人ぞ知るバトマの創設者だ。「子供たちに夢を与える」というコンセプトを元にバトマの基礎を作ったらしい。

そいつの願いを受けカードと化したようだが…分からない、話が全く繋がらない。


「詳しく教えてくれるか?」


「全てを語りましょう。あれは40年前…」

〜〜〜〜

彼女の説明はとても長かった。だが、その内容に見入ってしまう程であった。

とりあえず簡単にまとめると…

「まず、邪神は全ての願いを叶えるという精霊の力を狙っていて、それから逃れるために各地に散らばった。」

「で、グリフォンは各地にいた精霊達を集め、邪神と戦い、撃退した。」

「それで、グリフォンの提案でバトマカードの中に混じり、邪神から逃げつつ、対抗出来る人間を審査していたというわけか。」


「その通り。それが我々のあり方です。」

彼女はうなづいた。


「にしてもグリフォンは頭が回るな。強大な力を持つ精霊達を子供のおもちゃに紛れ込ませるなんてな。よく考えられてるぜ。」

その考えに感心した。


「それもそうですが、彼が一番気にしていたのは邪神の再来でした。強大な力を持つ邪神を撃退する為には私達の力だけでなく、使役者の素質も重要。私達を紛れ込ませたのは素質を見極める為でもあるのです。」


「そういう方法もあるんだな。確かに、カード集めには信念、人脈、知力、運、財力、筋力と多くの能力を使う。素質を判断するのにぴったりだな。」


「で、それに選ばれたのは俺って訳か。」


「理解が早いですね。そう、あなたは選ばれたのです。ですが…」

〜〜〜

その説明は俺の疑問を全て引きちぎった。


「そういう事だったのか。」

「俺はあの時点で精霊の宿る『※ゴット9』カードのうち8枚を所持していて、最後の『ホワイトロータス』を購入した時点で揃っていた訳だな。」


※ゴット9…バトマにおける最強カード。ごく初期に発行されただけであり、流通量はとても少ない。


「だけど、邪神に狙われて俺は謀殺…その手に渡る所だった。」

「そこで、介入してきたのがトレカという訳だな。」


「ええ、彼女があなたのコレクション全てを別空間に送ったため最悪の事態は免れたのです。」


「でも、邪神は執念深く、トレカの天界までやってきた。そこで、デコイとして俺のコレクションをばら撒いた…それで合ってるか?


「その件はすみませんでした。あなたにとって大切なものをばら撒いてしまって…」

彼女は申し訳なさそうに謝った。


「今回ばかりは仕方ないぜ。俺もあの邪神の恐ろしさは知っている。あれに呑まれるくらいなら俺だってコレクションを差し出すと思うしな。」

怒りが込み上げたものの、ここは耐えた。彼女らの苦難に比べたら俺の怒りなど小さいモノだからな。


「まあ、これで一つ謎は解けた。あんたが俺の前に現れた理由もなんとなく分かったぜ。」


「分かるのですか?」


「『邪神ターミナルを倒してくれ』って事だろ?あいつには馬鹿でかい借りがあってよ。喜んでやってやるぜ。」


「その答えを待っていました。よろしくお願いしますね。誘導 勝。」

彼女は手を差し出した。


「よろしくな。ローラさん」

俺はその手を握り返した。


「…私のこと…でしょうか?」

彼女は不思議そうに首を傾げた。


「あだ名だよ。ホワイトロータスだと呼びにくいからさ。その方が似合ってると思うぜ。」


「ローラさん…良いあだ名ですね。大切にします。」


彼女は目を細めて笑みを浮かべた。



「…はっ…あらやだ。ずっとあなたの手を握ってたみたいね。ぼーっとしてたのかしら?」

急に女将さんに戻ってしまった。まだ聞きたいことが山ほどあったのだが…


「それじゃあ仕事に戻るわね。今日はゆっくり休んで、調子を取り戻してね。」

パタン


何も覚えていないかのように女将さんは部屋を後にした。今のは幻なのだろうか?いや、きっと違うな。また会える事を信じて俺はベットの中へ戻った。

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