第5話 白いページの中に-5
「石川君?去年一緒だった?」
「そう」
「なに、急にそんなこと聞いて?」
「ちょっと、昨日帰りに会ったの」
「あぁ、なに、それ?」
少し笑みを浮かべながら美枝は深幸を見つめた。
「そんなじゃないわよ。ね、どんな子だったか覚えてる?」
「んー、あんまり。あんまり、話したことなかったしね、それに、ちょっと石川君って怖かったじゃない」
「え、そうだった…?」
「うん。ちょっと、ワルっぽくって、けっこう学校サボってたじゃない」
「ぅん…そうだったっけ?」
「そうよ。あ、松山君、石川君ってどんな子だった?」
美枝ちゃんは、近くにいた松山君の腕を引いて訊いた。
「なに?石川?石川って、去年一緒だったやつ?」
「そう。覚えてる?」
「ん。クラブ一緒だったから」
「何のクラブ?」
「バレー部だよ。だけど、あいつ上級生とケンカして、夏ぐらいに辞めたんだ」
「そうだったの」
「石川の友達が、上岡の悪いグループとつきあってて、石川もおんなじように遊んでて、よくクラブサボってたんだ。それを咎められて、揉めて辞めたんだ」
「どんな感じの子?」
「どんなって、気の強い、チンピラみたいなやつだよ」
「この学校じゃ珍しいわね」
「まぁ、運動神経はよかったけど、練習嫌いだったから、先輩に睨まれたんだ」
「不真面目タイプね」
「でも、あいつ、態度が悪かったんだ。掃除もしないし、注意されても聞かないし」
「あ、思い出した」
「なに?美枝ちゃん」
「そうそう、一回、あの子に助けてもらった事あったわ」
「え、なに?」
「体育倉庫にボール取りにいったときよ。先生に言われて一人で行ったんだけど、うっかり籠ひっくり返しちゃってさ、慌てて片づけてるときにたまたま石川君が来て、一緒に片づけてくれたの」
「…そう」
「黙って手伝ってくれたわ。はじめちょっと怖かったけど、あぁ、いい子だなって思ったの」
「そんなことあったの……」
「ところで、深幸ちゃん。昨日、その石川君と、ナニがあったのかナ?」
「べ、別に、何もないわ」
「あやしいわね……」
「あ、そうだ、近藤君って知ってる?」
「誰、それ?」
「石川君の友達だって。どこのクラスだろ?」
「もしかして…」
「なに?」
「石川君に、紹介してもらったの?」
「な、なに、バカなこと言ってるのよぉ」
「アヤシイなぁ」
明ちゃんと美枝ちゃんが囃し立てる。
そんな場面に自分がいることが、不思議だった。いまも、石川君は、きっと、悩んでいるのに。
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