いろいろちっちゃいJKが、いろいろおっきい同級生とオトナな先輩に翻弄される話。

猫毛玉

第1部 第1話 沙希と優美

 小学生の頃、近所の中学生のお姉さんはとっても大人に見えた。

 制服のスカート一つとってもそうだ。自分たちのスカートは肩からぶら下げるヒモがついている。いわゆる吊りスカートというやつだ。


「あなたたちは腰に全くくびれがありませんので、スカートがずり落ちないよう、肩からぶら下げるヒモを用意しておきましたよ。」


 というわけだ。大きなお世話だ、と言いたいところでもあるがまあ、それは、事実であるのでヒモの必要性は認めざるを得ない。


 その自分が中学生になると、スカートこそ吊りスカートではなくなったが、そんなに急激に胸がふくらんで色っぽくなるわけでも、くびれが急成長するわけでもなく、今度は近所の高校生のお姉さんが可愛くて大人に見えてくるのだ。


 沙希はもともと華奢きゃしゃだが、なで肩で猫背なのが、より一層彼女を小さく見せる。丸顔の真ん中に小ぶりな鼻と、ちょっと眠たそうな瞳。小学校の高学年で早くも150センチになった身長だが、成長期が早く訪れただけだったらしく、伸びはそこで停止。そうはいっても、これから体は大人っぽくなっていくはず…だったが、無情にも胸の成長のほうも中学校が終わるころにはずいぶんペースダウンしてきた。


「おっはよう~沙希~。今日もかわいいねぇ。ぐりぐり」

「ひぇっ。おはよう優美。ううー。今日も変わらず上から目線ですか。」


 沙希の頭を一段高い位置から伸びる右手で、うりうりとなで回す優美。

 沙希を見つけて走って来たのだろう。2月にしては暖かい曇天の朝だというのに吐く息が白い。


「上からなのは物理的な理由ゆえ仕方ない。」


 いつものちょっと口元が緩んだ笑顔ではにかむ優美。


「沙希ってさ、なんか小動物っぽくてかわいいんだよね。リスとかヤマネみたいな。だからなでたくなっちゃうというか」


 優美はそう言いながら両手でソフトボールくらいの大きさの丸を作って見せてくる。


「リスはともかくヤマネって何?」

「なんか、珍しいリスみたいなやつ。」

「んじゃあ結局リスじゃん。で、その、小動物っぽさって何?」


 なでまわされて乱れた髪の毛を直しながら沙希が聞く。


「定期的にぼーっとしてるのに、周りの音とかに反応して急にビクってなるとことか。」


 確かに沙希にはそういうところがある。急に発せられた音だけじゃなく、ふと漂ってくる匂いとか、自転車をいでいて日陰から日向に出た時のチカチカする感じとか、初めて着る肌着のこなれていない感じとか。沙希はそういった身の回りのちょっとした刺激が苦手だ。


「小動物っぽくてかわいいかぁ。それって褒められてるのかなぁ」


 ため息交じりに沙希がつぶやく。優美はその反応が物足りなかったのか、やおら通学バッグを地面に置くと、


「うりうりうりうり!」


 優美は当然のようにそのまま後ろから沙希の胸を両手でもむ。ただでさえ主張の弱い沙希の胸だが、コート越しではその存在が感じられるのかすら疑問だ。


「おおう。懐かしい。この感じ…小学生時代を思い出す…かわいいのう。」

「うう…ヒドい…追撃で物心両面からの攻撃ですか…」


 沙希に後ろから不意打ちでナチュラルなセクハラを働いた優美は沙希の一番の友達だ。身長150センチの沙希とは対照的な170センチ近くある身長と切れ長な目。中学生とは思えないほどの胸部の充実っぷり。それでいて、


「なー、吉川ー。いっぺんその胸、もませてくれよー」


 などと同級生男子が言おうものなら


「ん?なんか言った?死にたい?」


 と冷たい笑顔を保ったまま吐き捨てる芯の強さ。

 部活は吹奏楽部なのに、なぜか運動神経抜群。まあ、うちの吹奏楽部はそこらの運動部より走り込みさせられるらしいが。そしてお約束のように成績優秀。父親は大学教授で母親は学校の教員という、絵にかいたような「イイトコ」の娘だ。

(私、女でよかった…これ、私が男でこんなにスキンシップされてたら一発で惚れてる。いやむしろ、女であっても惚れても許されるレベル。)

 そんな気持ちを悟られないよう口を開く。


「いいよねぇ。優美は何もかもを手に入れていて…神様は不平等なり…」


 沙希が、遠い目をしながら歩いていると、その反応に優美は一瞬不満そうな顔をしたが、すぐに唇をアヒル口にしながら言う。


「おやおや、沙希はそこにいるだけで私をこんなに幸せにしてくれているではないか。それだけでは不満だと?」

「確かに、なんでもできる優美を幸せにできてるのならそれはすごい?のか?いや、なんかまた優美にうまいこと騙されてるような気がする。」

「いーじゃん騙されときなよ。」


 優美がけらけら笑う。

 こんな日常がずっと続くといい。特にこれ以上、何かは望まないから。ずっとこうして優美と同じ時間を過ごしていたい。でも、それは無理だ。どんなに毎日を大切に噛みしめていても、中学の卒業が近づいてくる。

 もうすぐ、何かを選び、何かを捨てていかなければならないのだ。そして、それを自分で決めなくてはならない。優美も、私も…

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