第9話 #6
#6
たった3行のつまらない詩と裸の王様の考察のレポートを一緒に捨てた。
捨てたことなどすっかり忘れた頃、久しぶりに散歩がてら寮に戻ることにした。
川辺の遊歩道を歩きながら、たった数行の裸の王様の新解釈をスクロールする。
ー王様は、本当はとても賢くて、大変なお仕事から逃げ出そうと、わざと裸になったとさー
と、いうことは王様自ら、着ていないものを着ていると言い張って、家来みんなを騙したのかしら?
その時、村の子どもの真実を暴く力には、どんな真実がみえたのかしら。
歩みがとまる。村の子どもの力?
そして、また歪めの音。白と黒。
しろと、くろ。 くろと、しろ、シロクロ シロクロ シマクロ シンクロ
しろくろ???! シマウマ?!
ーシマウマー
手製の
おりに
はいっている まど・みちお
また思考の檻にあと戻りの予感。
今回ばかりは、理由が明確。
あの時、うっかり気を許したばかりに。あの時うっかり、紙一枚を受け取ってしまったばかりに。
そしてそのおおきな鉄檻が扉を締め始め、私はその場にしゃがみ込んだ。
視界が霞む。
あの失礼なひとが駆け寄ってきた。
「だいじょうぶ?真っ青よ」
あの失礼なひとは、しゃがみ込んだ私を抱えこむようにして、立ち上がらせた。あぁ、いつも前のほうの席に座って、熱心に講義を聞いている子。かぁっちゃんと呼ばれている子だ。香?和美? いや‥‥、かなだったか? とにかく。その、かっちゃんが。
かっちゃんが、私が歩くのを手伝って、近くのベンチに座らせた。
「会えてよかった。この道で行き会えるのは珍しいよ。谷先生がね、あなたをとても心配なさって。伝言を頼まれてたの」
ーは? あれなら、とっくに捨てたから。どうかご心配なくー
隣に座ったかっちゃんは、そのまま続けた。
「捨てたら終わりだと、思うだろうって」
ー人の心を読むような真似。本当にいやらしい。失礼でいやらしいー
でも、目が離せない。もう少し、そばで話しを聞きたい。
かっちゃんの声はどこまでも穏やかで真剣だ。
「だいじょうぶ。正しい眼を持てば、
あなたに必要なもの、その扉が開かれますって」
ーまた、曖昧。そのせいで混線してるのに?ー
いつの間にか、かっちゃんの声と谷先生の声が重なった。
「真実を暴く力を持つ特別な子が、正し眼を持てば、混乱することはないと思ってましたのよ」
ー???ー
ーたしかに。私は特別な子なのに。真実がわかれば混乱なんてしないのに?ー
かっちゃんと谷先生、他の誰かも話し出す。時につぶやき、時にふたりで3人で。手法を変えて形を変えて。
「裸の王様のお話しの産みの親をご存知ですか? 実のところわたくしは、存じあげないのです」
ーうんざりだ。何がいいたいの?ー
「あの日、あなたがナビをセットし、動物園に行ったということです」
もうつかれた。それこそ幾度繰り返せば気が済むのか。わかった。おしまいまで付き合いますね。
ーそう、シマウマ。柵の向こうでのんびり水を飲んでいたシマウマ。檻の中ではない。サバンナではないけど、のんびりと柵の中にいたシマウマー
で、そのシマウマがどうしたの?
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