第4話 #1

 #1



 「それで、あなたは分かったのですか?」

  誰かに問われて、我にかえる。


 誰だかわからない。ひとまず、師匠としておこう。


 師匠はぼんやりしたままの私に、再び尋ねた。


 「それで、あなたの書きたいこと。

テーマ。まずは、それがないと始まりませんね」


 あぁ、書き方教室だ。では、師匠と呼んで差し障りないだろう。


 脳裏に不安がよぎる。

 これは私の話しなのだろうか? 

 心許ない、ざわざわとした感覚。


 〝わたし〟とは、誰のことかと考え出せば、また文字や言葉や物語たちが空中分解をはじめ、塵となる予感。


 散りじりになっては、話しにならない。急いで〝わたし〟は〝私〟と、心に留めた。


 答えに時間がかかると、印象が悪い。加えて、師匠の教えてやる、といわんばかりの態度が、私の頭を刺激した。切り口上にこたえる。


「たぶん、いじめについて。だと思います」


 師匠は、私に尋ねた。


「あなたはいじめにあっていたのですか?」


 回答出来ず、視線を逸らした。

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