第10話 家庭教師

「貴おじさん、来たわよ」

 結局、姪の恭子は家庭教師の依頼を断れず、貴の下へ現れた。

「おお、悪いな。まぁ上がってくれ」

「しかし、むさ苦しい部屋ね。男の人ってみんなこうなのかしらね」

 と言いつつも、散乱している書籍を拾っている。

「いやぁ、お恥ずかしい」

「で、私は何をすればいいの?」

「ああ、いま法学部受験の勉強をしててな」

「てか、なんで今更?」

「深~い大人の事情があってだな」

「何よ、その事情って」

「まぁ、いいじゃないか」

「良くないわよ。第一、おじいちゃんたちが知ったらどう思うのよ。あの堅物を絵にかいた人が何て言うと思うか考えたの?」

「そりゃ考えたさ。行き当たりばったりで考えたわけじゃなく、本気なんだよ」

「でも無茶苦茶じゃない?そんな大学合格と言い、おじいちゃんたちのお怒りと言い、そんなリスクの高いことに加担するのは気が引けるわよ」

「そう言うなよ。ほかに頼る伝手が無いんだ。この通り」

 貴は恭子を拝み倒した。

「私が関わったことを誰にも言わないならいいわ」

「恩に着るよ。バイト代は弾むぜ。後払いで」

「何よそれ」

 令和の女子大生には昭和のヤサグレおやじのギャグは通用しないようだ。

 恭子は週に2度のペースで貴の下へ訪れ、二人三脚で大学受験の準備を進めた。恭子は情報科学部に在籍していたので、理系科目が苦手な貴は数学や物理・化学を重点的に教わった。

 年末の模試ではその効果が現れ、慶明大学政治学部では合格ラインまで届いていた。しかし、国公立の東京都大学と京都府大学の合格は微妙な線であった。

 「やることはやったんだから、あとは祈っておいてね」

 恭子は最後までクールだった。

 「今までありがとう。必ず受かるから」

 「ま、がんばってね」

 そう言い残して恭子は貴の下を離れていった。

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