「ありがとう」が言えるまで

イノベーションはストレンジャーのお仕事

第1話 プロローグ

 彼女との再会は突然入った合コンであった。貴は行きたくない飲み会が設定されたもんだと頭を抱えていた。実はこの合コン、貴の「元カノ」が出席するという事を事前に知らされていたからだ。

その心持ちは普通の感受性を持った人間であれば「行きたくない」のは当然のことで、この元カノとはもう十数年会っていない。

「わかったよ。頭数合わせでいいんだろ?」

「悪いな、わざとじゃないんだぜ」

「わかってる。まぁそれなりにいりゃぁいいんだろ?」

「他の女の子もいるし、何とかなんだろ?」

「まぁな。設定したお前のためだ。ひと肌脱いでやるか」

この合コンを設定した智也にはお気に入りの子がいて、その子と良い仲になりたいという一心で設定したのであった。しかしこのケースにおいては、智也のお目当ての女性が貴の元カノと繋がっていた、というシチュエーションである。

貴の元カノはいわゆる「キャバ嬢」というやつで、真面目な貴とは真逆のキャラではあったが、不思議と仲はうまくいっていた。しかし、近場ではあるが転勤が原因でうまく行かなくなった。

その彼女が真面目な貴にくっついたのは、区役所の先輩に連れて行かれたキャバクラでの出会いであった。「元カノ」はそこで働いており、貴に一目ぼれしたようでその酒席で元カノがぐいぐい貴に「キャバクラでの高度なテク」でがぶり寄りしたという経過であった。

当初、貴も戸惑ったが彼女は実は結構真面目な子で、家庭の諸事情で泣く泣くキャバ嬢になったという。貴も行動を共にするうちに真面目である片鱗を感じ始め、何気なく彼女に惹かれていき、付き合うという事になった。

貴は別れていたものの、全く未練がなかったかと言うとそうでも無く、逐次気にはしていた。男とは総じて未練がましいいきものである。智也に誘われた合コンに行きたくない反面「元カノ」がどうなったか見たい気持ちもあった。むしろその思いの方が強かった。

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