百合の花 ー18ー
A(依已)
第1話
いつの間にやら、一家全員集まっていた。三世代いっしょに住んでいるらしく、下半身むき出しの幼子から、昔話から飛び出してきたかのような、いかにもなお年寄りまで、総勢10人はいただろうか。
最初は見なれぬ客人に、一家もきょとんとしていたが、すぐになれてしまったようで、誰もわたしのことなど、気にしなくなった。
たったひとつの裸電球が天井からぶら下がった囲炉裏を囲って、家族が輪になり、腰を下ろした。わたしも、彼女の隣に腰かけた。干し肉とじゃがいもをとうがらしで炒めたものと、高菜と卵のスープが用意された。美味しそうだった。
彼女がどうぞという仕草をするので、
「いただきます」
と日本語でいい、手を合わせた。自分達日本人にとっては何気ないわたしのその行動が、異国の彼等には、よほど奇異に映ったらしく、一家がいっせいに、わたしを凝視した。
が、どうしようもなく皆お腹を空かしていたようで、すぐさま何事もなかったかのように、さして気にも留めることなく、もの凄い勢いで、夕飯をかき込み始めた。
「美味しい!」
素朴なそのおかずは、とても美味しかった。思わず日本語で、声をあげた。
彼女がにっこりとした。
「ハオチー。
ハオチー」
どうやら中国語で美味しいを、教えてくれているようだ。わたしは真似た。
「ハオチー」
彼女は親指をたて、真っ黒に日焼けした、化粧っ気のない顔の目尻にしわを寄せ、グッドという仕草をした。
中国の山奥だというのに、なぜだかこの家族との団らんのひとときは、わたしにとってひどく懐かしく、郷愁を感じさせらた。その時代に生きてなどないのに、日本のふるき良き時代を、思い起こさた。
百合の花 ー18ー A(依已) @yuka-aei
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