Critical Point ②
ドゥブロヴニク脱出から3日後。温暖な気候が1年中続くイタリアに、2人は少し前から滞在していた。
過ごしやすい気候と美味しい食べ物も相まって気の緩んだアリスは、呑気にバルコニーで陽の光を浴びて海を眺めていた。
そこに朝早く出かけていた男が帰って来る。
隣に腰掛けて炭酸飲料を開け、勢い良く喉の渇きを癒す姿に、つい唾を飲み込んでしまう。無言で差し出されたもう片方の瓶を受け取り、思い切り1口流し込む。
「名前……エイリス」
「ん? ん?」
瞬きを細かくしながら1度逸らした顔をもう1度アリスの方へ向け、飲もうと傾けていた瓶を傾けたまま止まる。
「まだ言ってなかったから」
不器用に無愛想に海と目を合わせたまま口を開いた事と、もう1つ思わぬ事が男をこの反応にしていた。
「え、エイリス? ずっとアリスだと思ってた。ごめん」
「よくある事だから。それで名前は?」
「あぁ、クラヴィス・ラ・リベルタ。改めてよろしくエイリス」
名乗ったクラヴィスは右手をエイリスに差し出すが、差し出された手を横目で一瞥したエイリスは空いた瓶をその手に押し付ける。にこっと笑ったクラヴィスはその瓶を受け取り、よし見てろよと言って受け取った瓶を突如放り投げる。
反射的に石で出来た柵に体重を預けて下を覗き込んで瓶を目で追うと、下で瓶が大量に入っている籠を運んでいる筋骨隆々な男が掴み取り、空き瓶を籠の中に放り込む。
「あいつが俺の相棒、あの見た目で名前はシャーリー。笑えるだろ」
クラヴィスから視線をシャーリーに戻すと、真っ黒なサングラスと目が合う。
2人を見上げてにかっと歯を見せて笑い、グッと親指を立てる。
「お前の怖さにエイリスが引いてるぞ」
「その嬢ちゃんエイリスってのか、可愛らしい嬢ちゃんだな!」
「お前絶対近付くなよ」
「俺の子も大きくなったら嬢ちゃんみたいに美人になるぜ!」
「なんか、きもい」
ははははっ、と笑って部屋の中に戻って行くクラヴィスを見送ってから、エイリスはもう一度腰を下ろして船の浮かぶ海を眺める。
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