The God

 コツッ……コッ……コツッ……


 地平線に陽が落ちる黄昏時たそがれどき。小さながねいろの部屋に響くのは、弾丸のリムが机を叩く音。

子気味良いリズムで繰り返される音が不意に止まり、陽が落ちるのを眺めていた男は掛かっていたコートを鷲掴み、少し肌寒さがゆるんだ夜の街へと繰り出す。


浮かれた観光客に投げ込まれた大量のコインが沈む大きな噴水が水を吐き続ける広場には多くの人々が行きうが、特に不幸も無いのに地面と会話をしながらそれぞれの帰る場所へと、機械的に、規則的に人々は足を動かし続ける。

男は思い立った様にふとひねた考えと足を止め、広場の真ん中でピアノを弾く青年にチップを投げる。いつの間にか背中に回っていた右手を元に戻しながら、誤魔化すように頭を搔いて再び歩き始める。

誰の気にも止まらないこの些細な癖を直せない理由は、この男がとてつもなくクソ野郎だと言うことに限る。

それは男が路地裏に入る所から始まる。前から歩いて来たラフな服装の影とすれ違いざま、指示の書かれた白い紙を受け取り目を通す。

「お前の兄のピアノは相変わらず酷いな」

「酷いっすよ兄貴、兄ちゃん結構評判いいのに」


 男はポケットからライターを取り出し、The Golden Afternoonとだけ書かれた紙が燃え尽きるのを見届けてからその辺へと投げ捨てる。


「対象は東スラムのゴミ山で追い掛けられてたっすよ、出来るだけ早く行った方が良いかもしれないっすね」

「次はこいつだ」

「気を付けてください、今回はどうもきな臭い案件です」

「俺よりお前が気を抜くなよ」


影に紛れて姿を消した背中に返し、男は微かに聞こえるピアノの音に合わせてステップを踏んで姿を消す。

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