Alice In

「追え追え! まだ近くに居る筈だ」

「はぁ……っ、はぁっ──っ」


 彼は誰時か。


 自由奔放のアートの様に散りばめられた瓦礫の庭の上、足場が悪いスラム街を駆け抜ける影が3つ。いや4つ。不安定な瓦礫に足を取られ転倒した先頭の影を1つの大きな影が乱暴に掴み上げ、息を切らしながらも、容赦無く拳を何度も振り下ろして叩きつける。

 3つの影が小さな手の中から何かを取り上げると、酷く汚れた体へ更に唾を吐き掛けてどこかに去っていった。


 こんな最低な掃き溜めにも平等に陽は昇り、陽が昇ると共に横たわる影が色を持ち始める。白い瓦礫の山に、透き通った白い肌に赤が滴る少女が描き起こされる。少女は痛みと空腹で鉛のように重い体を無理矢理引きずり起こし、口の中を占める血の味を、飴玉を舐めるようにしながら、ふらふらと鳥の足の様な痩せ細った足を前に出す。

「ほんと無能、本物はこっちだっての」

 男たちに聞こえなくなってから悪態を吐いた少女は、首に掛けていた紐にぶら下がった鍵を取り出し、地平線に半分隠れた真っ赤な太陽にかざす。薄暗い路地は鍵に施された翠の宝石の色で満たされ、幻想的な景色を生み出す。路地裏に浮かび上がる少女の難解な笑みを、《イーディス》ではないが、小さな瞳は複雑な顔で見ていた。

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