夢世界ムーンボウの余光

立花戦

プロローグ

まぶしい空は決まって青と白。

オレは手にとどかないそこへ行く方法を知らない。


(いくら伸ばしても願いは叶えないなんてリアルを生きていれば分かる。

はばたくトリのように上へ行けるようになれば見る景色なんかが違うんだろうなぁ)


7月の暑さは異常で、その蒸し暑さで道路の真ん中で端に倒れるには十分なほど思えてならない。


「…あつすぎる」


小学2年であるオレは今は学校の帰り道。授業が終わると先生は友達と一緒に帰るんだよ、と優しく言うけど一緒に帰らないなんて誘うのが恥ずかしいミッションがクリアー出来ずに一人。


(さっさと帰ってゲームしよう)


来た道を戻って歩くと心が踊る?という気持ちだ。一人ぼっちのオレには友達以下という存在もいないので登校は苦痛に感じ、帰りは何をしようかと鼻歌を口ずさみたくなる。

やっと家にたどり着いたと嬉しくなりカギを出そうとランドセルを下ろそうとして異変が起きた。


「な、なにが!?」


あちこち視線を動かすが特に変化という変化は何もなかった。


(気のせい?けどヤバイぐらい変わったと感じている。これって病気なのかな)


ランドセルからカギを取り出して背負い直すが、わざわざそんなことしなくても近いんだからと自分の行いにツッコミを心で入れる。

ドアに近づこうとして信じれない事が目の前で、いや上から降りてくる人がいた。


「えっ?と、飛んできた…空から。それにアニメみたいな人だ!」


ドアの前に着陸したのは赤い髪と目をしたカッコいい大人だった。

まさかハトのように飛んで楽に帰れないかと考えていたが、この人は飛べるのか!?


「まさかアナザーワールドに子供がいるなんて。どうしてこんな所にいるんだい?」


声を掛けて来た!!視線が合うようにしゃがんでくれたが怖い。


「な、なんですか!?大人の人を叫んで呼びますよ」


「えぇー、それは無いだろう。

まぁ、その反応は無理ないんだけど見た感じでは飛んできた俺に驚いていた事から知らないんだな」


このお兄さんは何を言っているんだ?そういえばアニメでこれを中二病?って呼ぶんだけ。


「驚くて飛んできたら驚くに決まっているじゃん!」


「はは、それはそうだ。でも飛べるようになれると言ったらどうだ?」


人差し指を立てて赤い髪のお兄さんは口角を上げて楽しそうに言った。


「飛べるってオレも飛べるの」


「ああ、そうだ。やってみるか?」


「やる!」


「なら、まずはイメージするんだ。自分がなりたい姿を思い浮かべて」


「うかぶ…」


目を閉じて何になりたいのかオレ自身も分かっていない。すぐに出てきたのが戦隊ものやウルトラマンなど。しかし変化していない。

手のひらを見つめて変化がない。


「いきなりは難しいか。説明させてもらうとだな、ここはアナザーワールド。もう一つの世界なんだ」


「もう一つの世界…」


言葉をすれば分かることもあるテレビのえらい人が言っていた。なら言って分かってみよう…だけど

分からない。世界は一つしかないのに。


「そう。ここをどんな場所かと例えるなら夢の世界。俺とお前は適正のある人間と選ばれてここへいる。この世界と居た世界が繋がる不可視の扉を、本人の意志と関係なく招かれたんだ」


「お兄さん話がむずかしいよ」


「あー、そうだな。この良さを理解するには、まだ早かった」


「べつに…分かるし」


イラッとしたまま言い返す。先ほどまで言ったのとは違っていてオレは視線をそらす。男の人は、こまったように笑う。


「もう一度だけ言わせてもらうと俺たちがいるのは夢世界。そして空を飛ぶ以外にも他も…出来るんだぜ」


男の人は片手を伸ばして前に出す。すると手の前から何もなかったはずの場所には火、火だった。

まるでゲームのようだ。


「うおっ!?」


「魔法も使えるんだ」


「やばい…やばいよ」


魔法がある。そうであるなら空を飛べるのも魔法かもしれない。

男の人はオレが何か変な事を言ったのか白い歯を見せ笑うと頭の上なでなでされた。


「はは、そうだなヤバイだ。けどスゴイのを見せてやるよ。ほら俺に捕まれよ。連れてやるから」


「う、うわあぁー!?」


オレの身体を抱え込むと男の人は空を飛び始めた。はげしい風が顔や体に、なぐられたような強さを感じる。夢にも見た空を飛んでいる!


「うわぁー、飛んでいる!?なんだかヤバイ…どんどん下が小さく見えるぞ」


「おいおい、こんな所で暴れると落ちてしまうぞ。ほら俺にしっかり捕まっておけよ」


どうせは聞いてくれない調子で、つぶやいた。落下しないようお腹の周りに両手を伸ばしていた支える力を一段と込める。上へ上がっていたのが前進する。


「わあぁーー!」


それから空の散歩は日が赤くそまっていくまで飛ぶ。空を少しだけ教えてくれた男の人は地面に降りる。


「そろそろイグジスタンスの時間だ」


「…いくじす?」


ゆっくりとオレを下ろしてくれた人は、またも分からない言葉をする。


「帰還だよ。もう一つの世界に入ってから時間が経つと元に戻っていく現象を指すんだ…まぁ俺が勝手にそう呼んでいるだけだけど」


おぉー、帰れるだけしか分からかったが。ファンタジーで大事なことを考えるのをわすれていたが、元の世界に戻ることは降りた場所から家に帰らないといけないのか。


「えっ、ここから家に帰れるの…」


「んっ?帰れるって…あー、その心配は無用だよ。定位置からもう一つの世界に飛ばれたわけだけど戻る場所は飛ばされる前と変わらずにそれも戻れるんだよ。

でも時間の経過だけは戻れないけど」


そうなのか。共働きをしている母さんや父さんが帰宅するまでに、なんとか帰れそうだ。

安心のためいきをこぼすと目の前に立っている人が小さな、つぶ飛んで身体が薄れていく。遅れてオレにもゆるやかに薄れて始める。


「フォールを…初めてここへ来て次は、どうやって行けるかを教えると強く意識すれば行けるようになる。でも戻ってから数えて12時間が経たないと駄目だけどな」


肩をすくめて言うと、その人は消えていった。どうやら元の世界に戻っていったみたいだ。


「そういえば名前をきいていな――」


夕日の町並みからあったのが真っ暗の一色に移り変わる。びっくりした、されど黒の世界から見慣れた場所にオレは立っていた。


「家の前…あの人が言った通りに戻ってきている」


まるで夢のようだった。帰ってからランドセルを置いて飛べないか魔法が使えないかと試すが何も起きず静けさだけが答えるだけだった。

母さんと父さんが仕事から帰ってくるとテレビを見たり食事をしたりと楽しんでいた。気づいたら時計の針は夜の九時。そろそろハミガキして寝ないといけない。

それが終われば休みの言葉を告げてペットの上で目を閉じるだけ。


「強く意識していればアナザーワールドに。夢世界に行ける…のかな?」


ねむたい、とりあえず寝よう。

それにしても今日は感動ばかりしていた。ファンタジーよく扱う空や魔法が作られたものだと7年の人生で歩んで来て学んだ。けど使えた空を飛べて魔法がある。


「行けたら…いいなぁ」


――そう願ってからねむりにつく。そして目を開けると俺はベッドの上にいた。身体を起こして気づく!

ねむくない、疲れていない。

まぎれもない夢世界だ。


「やった、やったぁぁ!わぁわぁ」


ジャンプしながら家を出ると外は真っ暗だ。夜遅いので大人しく帰ろうと思ったが、ここは家で誰もいないのだ。


(夜の散歩がいくらでも出来る!)


数分後、またあの人がいた。


「…ハァー。すぐに再会するなんてなぁ。子供が夜の散歩するんじゃないんだぞ?」


「で、でも…誰もいない」


それに、この人の以外には、どこにもいないのだ。


「どうあれ、戻るつもりは一切と無いか…。よかったら夜の虹を一緒に見に行かないか?」


その人がそう言って、どこに連れてくれるのか好奇心で頷いて快諾。

両手を回して空を飛ぶ。なんだか運ばれていないか不満を抱きながら外の見て楽しむ事にした。

案内してくれたのは知らない場所。


「ここ俺のお気に入り憩いの場所だ。岩本山公園いわもとやまこうえんきっと静岡県の出身なら知っているじゃないか?」


「いわもとなま?」


見渡せば下には芝生、上には夜空と梅の木が整然としていた。

あの人に静岡県が出身と教えていないはずなんだけど…。


「あつ、ほら上を見てみろよ」


何があるのか振り返ると月の虹。

夜に咲くように出現する7色アーチ状が夜をてらす。


「こんな滅茶苦茶な現象を見れたのは、ここからだよ。

あの夜空を照らすのはムーンボーと呼ぶらしいぜ」


「ムーンボー……」


見とれていた。その虹の美しさに。

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