寒冷適応
「……」
不可解な人間を目の当たりにした<それ>が次に認知できたのは、自身が配置されたはずのジャングルとはまったく異なった光景だった。
明らかに山岳地帯。それもかなりの標高だ。周囲は完全に雪に覆われている。
<それ>は、ジャングルに配されるために、高温多湿な環境に適応するように調整されていた。質量に比べ表面積を増やし、体内で生じる熱を放出しやすいように、高さは百メートル程度に抑えられていた。
だが、雪に覆われるような寒冷地では、体内で発生させる熱量に比べて奪われる熱が多すぎた。このままでは自身を維持することができない。遠からず機能停止に追い込まれてしまう。
なぜこのような環境に突然置かれたのかはまったく分からない。あの、白いブラウスとグレーのパンツスーツを身に着けた人間の姿を見た瞬間からここに配されるまでの記録が一切ない。いわゆる<動物>のような睡眠を必要としない<それ>は、常時稼働状態を維持し、記録を取り続けるように設計されている。このようなことは本来有り得ないはずだった。
なのに、現にこうしてジャングルから雪に覆われた寒冷地へと移動させられているのは事実。
「……」
自身が危機的状況に置かれたことを察した<それ>は、急いで寒冷適応を図ることとした。幸い、それができる機能はある。しかしそのためには大量の栄養素を摂取することが必要だった。
なので今は敢えて備蓄されている分を使って、動くことができない自身の代わりに栄養源となるものを採集してきてくれるものを生み出した。表面に瘤がいくつもできて割れると、中から獅子を思わせる意匠をもった獣が生み落とされる。獣型兵器だ。<それ>が生み出す獣型兵器は、栄養源を採集し届ける役目も持つ。
まずは敏捷で運動性が高く小回りも効く獅子型兵器を五体生み出し、栄養源を集めさせる。
とは言え、急造品であるためその獅子型兵器も寒冷地には対応できていない。何度か動物や植物を集めてはこれたものの、次々と機能を停止した、
しかし、これによって得られた栄養素を元に自身の体を作り替えつつ可能な限り寒冷地に対応した新たな獅子型兵器を生み出し、放った。次の獅子型兵器は、最初のものよりは長くもち、より多くの栄養源を確保してくれた。
こうして<それ>は、徐々に体を大きくしつつ、可能な限り寒冷地に対応した獅子型兵器を生み出すようにしていった。
と同時に、<味方>と連絡を取ることを試みる。なのに、有意な電波が拾えなかった。だから<それ>は、より遠くの電波を拾うためにも自らの体を上へ上へと伸ばしていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます