異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語
京衛武百十
プロローグ
何のために生まれたのか
自身が何のために生まれたのかを、<それ>は知っている。
人間を殲滅するためだ。ただただそのためだけに<それ>は生まれた。人間を殲滅するための兵器を生み出すために生まれた。
きっかけが何だったのかは、もはや分からない。この戦いが始まってからはもうすでに二百年以上が経過していると記録にはあるものの、果たしてその記録自体がどこまで正確なものであるのかは定かではない。
だがそんなことは<それ>にとってはどうでもよかった。自身の役目は明確なのだから。その役目を果たすだけでいい。
ただ、戦いが始まってから二百年以上が経ち、人間達の激しい抵抗もすでにピークを過ぎ、今では散発的なゲリラ戦が発生するだけだった。
この日も、ジャングルの中に人間達が潜み、<それ>を破壊するために迫っていた。
しかし、無駄なことだ。<それ>が生み出す兵器群は、人間が使う兵器をはるかに上回って頑強で強靭で高威力だった。<それ>は、あらゆる有機物を摂取し、無制限に兵器を生み出すことができた。たとえ一体二体撃破されたところで、三体四体と生み出せばよかった。
人間をたやすく屠る獣をベースに遺伝子操作で開発された兵器群は、元は人間自身が作り出したものだったが、今や造物主たる人間にとってのまぎれもない天敵となっていた。
今も、<それ>が生み出した獣型兵器の一体が人間を捕らえ、運んできた。ガンベルトらしきものを襷掛けにして軍服を思わせる衣服を身にまとってはいるものの明らかにまだ十代と思しき少女だった。すでに死んでいるらしく目は見開かれたままだ。
すると<それ>は、体の一部を口のように開き、少女の体を飲み込んだ。獣型兵器を生産するための材料にするためだ。
そう。人間を食らい、人間を栄養として獣型兵器を生み出す。これが<それ>に与えられた機能だった。
だがその時、
ガーン!
と大きな音と共に<それ>の一部が弾けた。食った少女が爆発したのだ。どうやら爆発物が仕掛けられていたらしい。
「……」
<それ>は、自身の機能が大きく損なわれたことを察した。なるほど<それ>を破壊するには効果的な方法だっただろう。しかし、この程度では<それ>は死なない。ダメージは受けたがこの程度であれば十日もすれば回復する。何しろここは密林。<食べるもの>なら人間でなくても構わないのだから、回復に必要な栄養には困らない。爆発で損壊したのとは別の<口>を開け、<それ>は獣型兵器らが運んでくる草木や動物を次々と食らっていった。
と、そこに、人影。
「!」
いつの間にか人間が一人、<それ>の前に立っていたのだ。周囲は警戒していたにも拘らず、まったく何の前触れもなく。
美麗な若い女だった。今のこの場にはまったく似つかわしくない、真っ白なブラウスとグレーのパンツスーツを身に着けた。
<それ>はもちろん、獣型兵器をけしかけた。人間は見つけ次第殺すことが第一義だったからだ。なのにその女は、
「お前ももうこんな仕事だけじゃ退屈だろう? 人間もすっかり減ってしまったしな。だからもっと楽しめるところに案内してやろう」
獣型兵器が自身に飛び掛かるほんのわずかな時間の間にそう口にしたのだ。確かに。
人間にできることではなかった。
直後、<それ>は何とも言えない感覚に陥り、認知機能が混乱するのを感じたのだった。
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