最強の美しさ
「あ……っ!」
完全に動きを止めた猛獣に臆せず近付くレイラの姿を見て、腰を抜かしたらしく立ち上がることもできない様子の少女が、青い顔で見詰め、息を詰まらせる。
彼女があまりにも無用心に近付いていったように見えたからだろう。
けれど、そうじゃなかった。
彼女は少しも無用心じゃなかったし、油断もしていなかった。なにしろ、バイタルサインはすでにその猛獣が間違いなく死んでいることを告げているし、それどころか、万が一にも蘇生するようなことがあればその場でとどめを刺す用意もあったのだから。
が、それは杞憂であった。その猛獣は、やはり完全に息絶えていたのである。
そのことを事実として確認した後、さらに周囲を索敵。脅威が存在しないことを確かめたレイラは少女の方に向き直り、
「状況、終了しました。現時点で危険はないと推定します」
と告げる。
すると少女は、レイラに向けて伸ばした手の重さにさえ耐え切れなくなったようにぱたりと地面に倒れ伏してしまった。安堵のあまり脱力してしまったのだろう。
レイラはそんな少女にするりと近付き、
「詳細なバイタルサインを取得するために、お体に触れてもよろしいでしょうか?」
膝を付き、腰まで届くプラチナブロンドの髪が地面に着かないようにさらりとかきあげ手早くまとめて、体を屈め、穏やかに笑みを浮かべながら少女に問い掛けた。
「は……はひっ……!」
その時のレイラの姿があまりにも凛々しく、それでいてたおやかで麗しく、もはや神々しいまでだったことで、少女の顔が一瞬で真っ赤になり、息を呑んだのが分かった。
もっとも、この時にレイラが言ったことのうち、『お体に触れてもよろしいでしょうか?』の部分しか、少女は理解できていなかったが。
ともあれ、少女の承諾を得られたことで、レイラはその手をそっと取り、体温、脈拍、血圧、血流量、血液が流れる音、発汗等の詳細なバイタルサインを取得した。
さらには、少女の頭にもそっと触れ、脳波も測定する。
しかし、その触れ方がまたあまりにも優しくて、少女の目は潤み、陶然とした様子だった。
つい今しがた、恐ろしい猛獣に襲われて命の危機に曝されたことなどなかったかのように。
それほど、レイラの美しさや振る舞いが超然として見えたということだろう。
現実感さえ失われるほどに。
何しろ彼女は、要人を警護する役目も負ったロボット。<最強の美しさ>も開発コンセプトに含まれていたのだから、少女の反応も、開発者の狙い通りと言えば狙い通りだったのだろうと思われる。
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