まるで犬でも転がすように
<全身が毛に覆われたT-REX>という印象の猛獣の突進を平然と受け止めたレイラは、そのまま、ぐいっと腕を引き寄せつつ左に逸らし、猛獣自身の力も利用して、地面に引き倒して見せた。
五百キロは下らない巨体が、まるで犬でも転がすように地面に倒れこむ様子に、レイラの背後にいた少女が唖然とする。
が、レイラは当然、油断しない。猛獣はまだピンピンしているのだから。怯んでいる様子もない。
そこで、暴れるその猛獣の首に腕を回し、バイタルサインを収集。頭部へと続く太い血管を探り出し、柔道で言う<袈裟固め>のような姿勢で押さえ付けた。
猛獣の方も、もがくだけでなく前足の爪で彼女の体を引っ掻くものの、まるで通じない。<エプロンドレスを思わせる服>にも見える外装にさえ傷一つ付かないのだ。
柔らかいが同時に恐ろしく強靭であるのが見て取れる。
そして彼女は、猛獣の頭部への血流を阻害し、意識を遠ざけた。すると猛獣の体から力が失われていくのが見て取れた。
が、
「……!?」
完全に意識が途絶えると見えたその瞬間、再び、猛獣の体に力が漲り、立ち上がり、レイラを振り落とすべく猛然と暴れ始めた。それは、先ほどまでのもの以上の強烈な暴れっぷり。
『脳がもう一つある……?』
レイラは改めて詳細なバイタルサインを取得。頭部とはまた別に、大量の血液が流れ込んでいる器官を探知した。
腰だ。腰の辺りに、腎臓や肝臓とは異なる、未知の臓器の気配。
それを探知したことで、自身が知る対処法では無力化できないことを悟り、躊躇なく切り替えた。
全力の脚の一撃で、心臓を蹴破るという対処法に。
『できれば殺したくありませんでしたが、仕方ありません。人命優先です』
極めて冷静に、冷淡に、ロボットらしく、容赦なく。
人間の目では捉えられない速度で繰り出された蹴りが、猛獣の体に撃ち込まれ。皮膚も筋肉も骨も肺ももろともに心臓を蹴破ってみせたのである。
もっとも、それを人間が目撃しても、猛獣の体がいきなり弾けて血飛沫を上げながら地面に叩きつけられたようにしか見えなかっただろうが。
猛獣は、それでもなおしばらくはもがいていたものの、徐々に動きが衰えていき、遂にはビクビクと痙攣を始めた。紛れもない断末魔のそれだった。
「……」
そんな猛獣の姿を、レイラは、やはり何の感慨も持たずに命の終わりを見届けた。状況が終了したことを確認するために。油断することなく。
心臓が破壊されたため、すでに血流は止まっている。後はすべての臓器が死に絶えるのを待つだけだ。
こうして、その、人間では成す術もなく捕食されるしかなかったと思われる猛獣を、彼女は、難なく撃退してみせたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます