ー魔王 side 〜 episode1〜 ー


    大失態だ!!!



永く待ち望んでいた、念願の復活を果たした魔王だったが、

身体は不完全だった。


魔氣を自在に操る事も出来ず、体も思うように動かせない。


魔王として畏れられ、崇められていた魔王だったが、

失態を晒し、逃げ去る様にその場を離れるしか出来なかった。


「情けなし!!!このオレが!!むざむざと生き恥を晒すなど…!!!」


魔王にとって決してあってはならない事。

必ずこの汚名を返上しなければならない。

これは魔王として、1人の漢としてのプライドでもある。


このままいつまでも生き恥を晒し続けるわけにはいかない。

この状況を一刻も早く打開しなければならない。


「…まずは自分の把握だな」


身体能力は先の戦いで分かった。

格闘の型や狙いの正確さは問題無かったが、重心移動のスムーズさや速さが足りなかった。

復活して間もないので、身体が馴染めば問題なくなるだろうーー例えだとしても。


問題は魔氣のコントロールだ。


氣は練れる。しかし練った氣が上手く循環出来ず、思うように流れていかない。


サッ


手を翳すが流れない。



「……………」



バッ



両手を挙げるが変わらない。



「……………」



スッ



指を額に置くが何も出ない。



「……………」



フッ



指を口に当てるが息しか出ない。




パチン



指を鳴らすが音しか出ない。



「……………」




カッ



目を見開いたが何も起きない。



「……………」



空間を掌握する空魔術も使えない。(時間や時空を掌握できるのは特定の神しか出来ない)


先の戦いで、呪文の言霊に魔氣を乗せた魔呪術も使えなかった。



……否、一度だけ使えた。



しかし、それは言霊に魔氣を乗せれなかったので、魔氣と自然の力(地、天そら[風、雷])や7行属性(水、金、火、木、土、光、闇)とを融合させた、ただの魔氣術だったが。




「……………」



クイッ



魔王は尻を少し斜め上に突き出してみた。


「!」


魔氣が流れていく感触があった。



「…………ニタァ」


何かを掴んだ気がして、思わず口を歪ませる魔王。




そんな魔王を、遠巻きから見ていた少年が居た。



「……………」



犬の散歩中に、飼い犬が用を足して(出して)いる時、偶然目撃してしまったのだ。



しかし魔王は、少年の存在など気にもとめず、自分(の下半身)に集中していた。



魔氣を臍から下に流すよう意識を集中すると、ミシミシと音を立て、下半身の骨や筋肉が膨れ上がり、強化された。

魔氣は鳩尾から上には流れないが、下には流れるようだ。


「…下半身に力が漲っていく。下半身ならオレの全ての技が出せる…!?」


ならば、錬成した魔氣を足に纏い、蹴り上げた瞬間に風と一緒に飛ばせばいい。錬成粘度を鋭く練り上げれば、風圧に乗せた鎌鼬も可能だ。

風の氣じゃなくても、水の氣を纏った水玉ウォーターボールの水圧で吹っ飛ばしてもいいし、他にも応用はいくらでも出来る。



突破口が見えた。



「イケる!イケるぞ!!オレはまだまだイケる!!!クハハハハハハハハ」

「ワンワンワンワンワンワン!」

「!」

「あ、バカッ、ポチ太郎、シィッ」

「……………」

「…あはは、ウチの犬がすいません、お邪魔しましたぁ!」


犬を抱えて脱兎の如く去る少年。



「…フン、アイツで技を試してみてもよかったが、今のオレは気分が良い。特別見逃してやろう。運が良かったな愚民。このオレに感謝するがいい。そしてオレに恥をかかせたクソ坊主ども!覚悟するがいい!!クハハハハハハハハ」



魔王が機嫌良く笑っているころーー



玄龍寺では、、、




「…ほう、魔王と呼ばれしこの俺に大層な口をきく。深淵なる闇に沈め(手を翳す)…クッ、魔氣は創造出来るのに、外に巧く練り出せない…だと!?」




「「「   ……………      」」」




「焦熱の炎獄で燒かれろ!獄炎楼!!……ブォォォ(ケツから火が出るジェスチャーをする)」




「「「   ……………      」」」




信善が魔王の完全再現をしていた。




そしてその魔王は、、、




「もしもし、警察ですか?公園にケツを丸出しにして不審な動きをしている怪しい男が居て、しかもケツ丸出しのままニタリ顔で「下半身に力が漲ってイク、オレの全てが出せる」とか「まだまだイケる」とか言いながら高笑いしてるんです」



通報されていた。




「…はい、宜しくお願いします。では失礼します。……さて、と。今日は朝から玄龍寺に行けなかったから、今から急いで向かって、夜のお勤めだけでも頑張ろう。みんなに変質者の事も知らせておかなきゃ。この世の中何があるか分からないからね」



通報した少年は、玄龍寺の見習い僧侶の1人だった。



こうして玄龍寺に急いで向かった少年は、ちくしょ〜!覚えてろよぉ〜!と叫びながら、両手で顔を隠し、上着を腰に巻きつけ、ケツ丸出しで全速力している信善と遭遇した。



「……ホント、この世の中何があるか分からないな…」



遠い目をしながらスマホを握りしめる少年は、40万Vのスタンガンをバチバチさせ、ニコニコ微笑みながら圧をかけてくる純と遭遇した。


「……………」


少年はつられてニコニコ微笑みながら、スマホをポケットに戻すと、純はそのまま何事も無かったように信善を追いかけて行った。


少年は事なきを得た。



ふぅ、と、安堵していると、大笑いしながら信善目掛けて全速力で追いかけて行く褌一丁の冬篤と遭遇した。


「……………」


ポケットのスマホに手を伸ばそうとした時、パキポキと指の関節を鳴らし睨みつけながら圧をかけてくる真と遭遇した。


「……………」



少年が両手を挙げると、真は何事も無かったように冬篤を追いかけて行った。


少年は事なきを得た。



「……お勤め先、間違えたかなぁ……」



少年がそんな事をぼやいている頃ーー



魔王は、、、




「お兄さん、こんな時間にこんな所でナニしてるの〜?」

「普段何してる人?」




職務質問されていた。




「…ちょうど良い、試してみるか」



ニタリと笑い、魔氣を下半身に流す。



「君、何でケツ出してるの?」

「何!?」



ケツを懐中電灯で照らされ、自分のケツを確認する魔王。



出てた。



確かにケツの部分だけ綺麗に出てた。



ここでようやく、自分のケツが出ている事に気づいた魔王。


慌てて魔氣をケツに集中させ、衣服のようにケツに纏う。

ビジュアル系の衣服に見えるが、全部魔王の魔氣だ。魔氣を異質変換させ衣服に似せて体に纏っているので、服を着ている様に見えるのだ。そう、この魔王、実は全裸マッパなのだ。世間一般でいうところの変質者ホンモノである。

だったので、仕方がないといえば仕方がない。



「ケツなど出しておらぬ」

「おらぬって、、、えぇー!?ケツがおらぬ!?さっきまでそこにおったのに!」

「何かマジックでもしているのか?」

「…はぁ…、君ね、こんな時間にこんな所でケツ丸出しにするイリュージョンするよりも、他にもっと情熱燃やす、熱い何かがあるでしょ」

「余計な世話だぁーーーーー!!!!!」





ドカーーーーーン





暫くしてサイレンが鳴り渡り、


魔王は、変質者の怪奇事件として、巷ちまたを騒がせることとなった。



そして信善はーー



「股が絶対破けない頑丈な装衣にして下さい」



人知れず涙を流しながらオーダーメード発注していた。


今後は激しく動いても、猛攻を受けても、股の縫い目が破けることも裂けることも無いだろう…。縫い目は。




ウウゥゥゥ〜〜〜



「首を洗って待ってるがいい!クソ坊主ども!クハハハハハハハハ」



ファンファンファンファンファン




「もしもし、股が絶対破けない頑丈な下着をお願いしたいんですけど…」




ピーポーピーポーピーポー





やたらサイレンが鳴り響く夜の出来事だった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・おまけ・


ファンファンファンファンファン

ピーポーピーポーピーポー


秋仁「…冬篤、お前の迎えが来たぞ」

冬篤「え?何の?」

秋仁「好きな方に乗って行くといい」

冬篤「俺!?」

春徳「…あぁ、隔離病棟行きか刑務所行きか」

冬篤「ちょ、2人とも酷くない!?」

秋仁「わざわざ迎えに来てくれているんだ。VIP待遇じゃないか」

冬篤「そういう事じゃなくない!?」

秋仁「有り難くさっさと乗って行くがいい」

冬篤「俺じゃなくない!?」

秋仁「待たせるのも悪い、早く行け。」

冬篤「何その厄介払いするみたいな…あ、ちょ、待ーー




真「…冬篤さん見ませんでしたか?」

源三「はて?…そういえば見ておらんな…」


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