2.瀬崎
12月24日。クリスマスイブ。僕は歌舞伎町にあるバーで働いていた。
「はぁ、なんでクリスマスなのに仕事しなきゃいけないんですか~。彼女といたかった~。」
「文句言わないの、瀬崎君。しょうがないでしょ~、仕事なんだから。」
僕に注意するのは、木島先輩。仕事に一生懸命でこの店がオープンした時から働いているそうだ。
「そうですよね~。仕事ですもんね~。」
今日は特にやる気が出ない。クリスマスだというのに一緒にいれないということで彼女と少し喧嘩をしてしまっているからだ。同棲しているとはいえ、特別な日に一緒に過ごせないのはそりゃ怒るよね。
「はぁぁぁぁああああああ。」
「ため息がでかい!!」
もやもやしながらオープンに間に合うように仕込みをしていく。
「今日の納品は~っと。あれ。」
納品物のシャンパンが来ていない。勘弁してくれ。クリスマスだぞ。他の酒が来ないならまだしも、シャンパンだぞ!!
ため息が出る。
「せんぱぁぁぁい。シャンパン来てませ~ん。」
まったく、酒屋は何をしているのだろうか。
「まじ?ほんとだ。瀬崎君、酒屋に電話してもらっていい?」
「は~い。」
酒屋に電話しようと電話に手を伸ばすと、タイミングよく電話がなった。
「はい、もしもし。」
「あ、瀬崎君?お疲れ様。今日なんだけど、俺、インフルかかっちゃてさ。だからお店お休みにするから、片づけて帰っていいよ~。あ、このこと、木島ちゃんにも伝えておいてね~。」
店長、一生ついていきます。
こんなタイミングで、なんて素敵な人なんだ店長。これは早く木島先輩に伝えなくては!
「先輩、店長から電話だったんですけど。店長インフルだから今日お店開けないそうです。なので自分たちもかえって大丈夫だって。」
「まじ!?」
「てことなんで、早く片付けちゃいましょ!あ、先輩、あまり出ないワイン、買っていってもいいですか?」
あぁ、今日はなんていい日なのだろうか。メリークリスマス!イヤホンから流れる流行の曲に合わせて踊りたい気分だ!早く帰って、彼女にサプライズをしなきゃ。
そうだ、できる男、瀬崎。帰りにケーキでも買って帰ろうじゃないか。
ケーキとワインを持って家に前に着く。部屋には明かりがついている。この時間に帰ってきたことなんて今までなかったし、すごいびっくりするに違いない。彼女の驚いた顔を想像するとわくわくしてきた。狭い階段を駆け上がる。ここは冷静に何もなかったかのようにいつも通り部屋に入ろう。よく分からない思考を働かせながら扉を開ける。
「ただいまって・・・って、あれ。」
リビングに彼女・裕美の姿はなかった。寝室にいるのだろうか。そうだ、こっそり入ってびっくりさせてやろう。
わくわくしながら寝室の扉を開けると、信じられない光景が目に飛び込んできた。誰だあいつ。知らない男が裕美の上に服も着ないで乗ってこっちを見ている。なんでそんなに焦った顔をしているんだ。裕美が何か話している。音楽のせいで聞こえない。あぁ、イヤホンつけたままだった。イヤホンを投げ捨て、僕は二人のほうに向かった。ケーキはいつの間にか落としていた。右手にちょうどいいのがあるじゃないか。耳から裕美の声が聞こえてくるが何を言っているのか分からない。僕の体が勝手に動く。ガシャン!!と大きな音を立て、ワインの瓶がはじけ、周囲にはアルコールのにおいが立ち込めた。裕美の上に乗っていた男はその場に崩れ落ちた。今度は僕がその男の上に乗り、割れて鋭く尖った瓶を男の腹に突き刺した。まだだ。まだ足りない。何度も、何度も。ベッドの上が血とワインで赤く染まっていく。裕美はどうした。あぁ、部屋の隅に座っている。可哀そうに。抱きしめてあげなきゃ。
「裕美。」
「ひっ、違うの、ごめんなさい。ごめんなさい。」
必死に謝り続ける裕美を僕は抱きしめて耳元でこう囁いた。
「君のせいだ。」
「ちがっ、」
僕は裕美の腹に割れた瓶を突き刺した。
気付くと、僕は橋の上にいた。殺してしまった。裕美を。あの男を。
殺した。
殺した。殺した。
殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。
逃げよう。捕まったら終わりだ。誰も僕のことを知らない所へ。早く。
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