第2話

 ひとつでも取りこぼせば、世界が終わってしまう。そんな危うい均衡のなかにいる。

 地球の近くで、そこそこ大きな彗星が割れた。それは電波を反射する特殊な鉱物の塊で、人工衛星や光学カメラに写らなかった。流れ星になって、この街付近に降り注いできている。

 それを、撃ち落とす仕事。空を見上げて、なんとなく座標と高度を予想して、手元のボタンをタイミングよく押す。そうすると、ここからしばらく行った山の中腹にある臨時の発射拠点から、ミサイルが飛んでいく。うまくいくと流れ星は消えていくが、うまくいかなければ。地球が彗星みたいに綺麗に割れる。いや、割れはしないだろうが、とりあえず地球は滅ぶ。そんな仕事。

 流れ星。長く線を引いて流れていく。座標と高度を予想して、手元のボタンを押す。ちょっとして、流れ星が消える。当たったらしい。

 常に自分の左手に、地球存亡がかかっている。そんな仕事。別になんとも思わなかった。緊張もしないし、高揚感もない。とりとめなく彼女のこととかを考えながら、こなすだけ。

 そういえば、これは依頼人不明の仕事だった。この街には正義の味方がいるという噂だから、きっとその正義の味方とやらが依頼してきたのだろう。依頼の電話で、本来は無人空母の仕事だったのに肝心の空母が壊れたとか、言っていた気がする。どうでもよかった。ただ目の前に仕事がある。それ以上でもそれ以下でもない。

 彼女も、この流れ星を、どこかで眺めているのだろうか。夜だから、もう眠ってしまっているかもしれない。

 それでも、ちょっとだけ、撃墜に猶予を持たせる。なるべく長く流れ星が残るように。それを見た彼女が、願いを唱えられるように。ちょっとだけ。

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