逃げ切れなかった流れ星(m)
春嵐
第1話
生き方が、うまく、コントロールできなかった。気を抜くと、いつも死線がそこにある。当然のように、ほほえんでくる。
最初の頃はもがいたり抜け出そうと躍起になっていた。今は、静かにしている。死線のなか、もっとも奥の深いところに、死以外の回答がある。それが、思考ではなく感覚で把握できるようになっていた。
長く生きることで会得する感覚や鋭敏な思考を、すでに持っている。それだけで、自分がすぐに死ぬ証明書を持っているような気分だった。どうせすぐ死ぬ。そう思っても、ぎりぎりを切り抜けて、生き抜いていく。心も身体も、気付いたら生きている。
死のうとしているわけではない。だからといって、生を謳歌しているわけでもない。死線の間、なんというか、公園の丸い鉄棒の上を、バランスを取って歩いている感覚。
だから、だろうか。彼女といるだけで、落ち着くことができた。彼女といるときだけは、自分を忘れることができる。死線も、その中にある答えも、見えない。
「凍華」
偽名だった。それでも、彼女が呼んでくれるから、自分のなかでは、これが本当の名前。そう思っている。
振り返ると。彼女がいる。静かに、まるで空のように。吸い込まれるような綺麗な瞳で。こちらを見ている。
手を伸ばす。彼女に。寄り添って、そばにいたい。さわれなくてもいい。ただ、自分の隣にいてほしい。それだけで、日常の死線を、忘れていられる。
彼女が、無造作に伸ばした手をつかむ。そして、握る。指と指が、ぴたっと絡まって。繋がれる。そして、ちょっとだけ笑う。それを見て、自分も少し笑顔になる。
このデートの間だけの、わずかな休息。
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