想いを告げる事
美月と語り合った日の夜、夏海は黒瀬と約束を取り付けた。土曜日の部活の後、告白すると決めて。そして夏海はそれを親友へ報告すると共に、美月は日曜日に告白してと、告げた。
きっとそうでも言わないと、美月は告白を遅らせる気がしていた。両想いの2人には早く想いが通じ合ってほしいと、願って。
「お疲れ。待たせた?」
「お疲れ。来なくてもいいかも、とか思ってた」
春なら満開の桜が楽しめる中庭のベンチに腰かけながら、夏海は弱気な自分の本心を告げていた。
「俺、帰ろうか?」
「それはだめ。もう、顔合わせちゃったし」
夏海の返事に軽く笑うと、黒瀬も少し離れて座った。
「いつもさ、白石が間にいて、俺達の関係は繋がってたよな」
「うん。そうじゃなきゃ、私が、動けなかったから」
「そっか。それじゃあ今日が初めて、花咲から動いてくれたんだ」
黒瀬の顔を見れない夏海は、うっすら赤く染まり始めた桜紅葉を眺めながら、返事をしていた。
「うん。すごく、勇気がいる事だった。だからね、美月は、本当にすごいなって、改めて思った」
「あの後、ちゃんと話せた?」
「話せた。だから私は、今日、黒瀬に告白しに来た」
夏海は勢いよく立ち上がると、真剣な顔の黒瀬を見つめた。
「私、1年前ぐらいから、黒瀬が好きだった。それからずっと黒瀬の事が知りたくて。でも、直接動いて拒絶されるのが怖くて、先に美月に確認をしてもらいながら、黒瀬に話しかけてた」
「うん。なんとなく、わかってた。だからじゃないけどさ、白石と接する時間が増えて、俺はどんどん白石に惹かれていった」
「そっか……。そうだよ、ね。それならさ、私が自分から動いてたら、私の事を好きになってくれる可能性も、あったのかな?」
意地悪な質問だと思ったが、黒瀬がどう答えてくれるのか知りたくて、夏海は問いかけた。
すると、ゆっくりと黒瀬が立ち上がり、夏海に向き合った。
「それはない。俺、もっと前から、白石の事が気になってたから」
「……そっかぁ。それなら、仕方ない。それに、美月だし。……うん。わかった。はっきり言ってくれて、ありがとう」
思いのほか冷静な自分がいて、夏海は内心驚いていた。
そんな夏海に、黒瀬からもお礼を言われた。
「俺は、花咲に感謝してる。俺が白石を好きなったのは、花咲がいたからなんだ」
「へ? 私?」
「そう。だから花咲は俺の恩人で、ライバルだった」
***
黒瀬を先に帰らせ、夏海は1人、中庭のベンチに腰かけていた。
「あんなフラれ方、想像してなかったんだけど……」
そうだったんだなぁ。
私と美月を見かけて、黒瀬が心惹かれたのは美月だったんだ。
黒瀬が美月を好きになった瞬間を聞き、夏海はようやく、じんわりと胸の痛みを感じた。
「でも、美月のそういう姿を好きになってくれたから、やっぱり黒瀬は良い男だ」
それに惚れた私も、きっと良い女。
「あーあ。どうして桜の花びらは、私にくっついてくれなかったんだろ」
心の中で自分を褒めつつ、口からは本音がもれる。だけど、夏海の心は妙にすっきりしていた。
だから夏海は空を見上げ、笑みを作る。
「幸せになれ! 私の大切な、親友と大好きだった人!」
晴れ渡った空は、今の自分の心をそのまま見ているように思えた。
それでも、夏海の瞳からは涙が溢れる。その次々に零れ落ちる涙と共に、今までの淡い想いも溢れ出し、夏海はそっと瞳を閉じた。
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