お題をいただいて書く物語
いちご
第1話 アレルギー(梨烏ふるりさんからのお題「春の陽気」)
ぽかぽかの陽ざしがこの部屋に届くことはない。
何枚もの襖に遮られたこの場所は身震いするほど寒いから私たちはこうして肌を合わせて互いの熱を高め合っている。好意があるからその行為に至っているわけではないのだとあなたは知らないでしょうけど。
それとも分かっていてやっていらっしゃるなら私はあなたを軽蔑するどころか逆に興味を持ってしまうかもしれません。
ただ急いたように動き回る手も敏感なところを嘗め回す舌も跳ねる息も――全部が拙くて私は一度も満足したことがないのです。
ああもっと深く。
ああもっと丁寧に。
なぜそう私の好い所を絶妙にずらして責め立てるのか。
「噛み合わないわね。本当に」
「なにが、だ。こんなに隙間なくぴったりだろうに」
広げられた箇所の更に奥へ、奥へと突き上げられるたびに内臓がぐいぐいと押し上げられて気色が悪い。繋がった部分が熱くて火傷しそう。舌を絡ませ深く口づけては互いの唾液を飲んでは胃が裏返り。
涙が止まらない。
鼻の奥が痛い。
擦れ合う肌が赤く腫れあがって堪らない。
「やめて……」
懇願するのにあなたはお前はこうされるのが好きなくせにって言って止めてくれないから。私はその喉元に噛みついた。
「可愛いことしてくれるじゃないか」
あなたが笑う。
ささやかな抵抗は彼の劣情に火をつけただけだったようで腰の律動が速くなる。
揺れる。
激しく揺さぶられる。
ああどうしてままならないの。
私つぎに生まれるときは男性でありたい。自分の好いた女性と一生を共にしたいと――叶わぬ夢を見ながら桜散る中で別れたあのひとを思い出す。
白いうなじと愛らしい唇のあのひと。
あのひともまた同じように親が決めた相手に嫁いでいった。
「いや……もう、やぁ……!」
有害な成分が体内に入ってくる。熱くて粘ついた気持ちの悪いものが。体中の細胞が反応して一斉に攻撃を始める。
そのまま私を殺してくれればいいのに。
本当にままならない。
困ったことに体を重ねるたびにこの人のズレが少しずつ心地よくなっていっていることから目を逸らせなくなっているのは私だけの秘密だ。
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