紅色の華~百合短編集~
フィオネ
第1話 あなたに溺れてく(大学生×人妻)
夫と会話したのはいつだろう。
夫の声を聞いたのはいつだろう。
夫と手を握ったのはいつだろう。
夫とキスをしたのはいつだろう。
夫と交わったのはいつだろう。
あなたの名前を呼んだのはいつだろうか。
★★★★★★★★★★
「うぅん。あぁ、朝かぁ」
ベットの横に置いていた目覚まし時計のアラームと外のにぎやかな音で目を覚ます。
「今、9時……か」
目覚まし時計の表示を見て、今の時間を確認する。そして私は広すぎるダブルベットを見渡していつもため息をつく。
私が寝ていたベットは二人で寝るための大きさだ。しかしながら今、そのベットで寝ているのは私一人だけ。ガラガラに空いたベットの寝心地は複雑な気持ちながらも最高だ。
「あ、メールきてる」
ベットの近くに置いて充電していた自分の携帯に目を通す。すると連絡先は夫になっていた。
「『帰れなくてごめんね。いつも愛してる』か」
来ていた文字の羅列を読み、私も指を動かして文字を入力していく。『私も愛している』という言葉を作業感覚でただ打ち込んでいくのだ。
これは一週間の始まりの習慣。月曜日に行われる仕事だ。
私の名前は『飯島由美(いいじまゆみ)』という。ただのしがない人妻だ。夫は5年以上前に結婚した男性。親の言いつけで見合いを行い、そこで結婚した。
旦那は有名な商社のエリートビジネスマンであり、若くして会社の部長クラスというなかなかに高い地位に就いている。だから親は私に彼との結婚を勧めてきた。彼も私が好みだと言ってきていたので結婚を承諾したのだ。
彼は本心から私を愛してくれたみたいだが、私にはその感情が全く無かった。もちろん表情には出さずにずっと取り繕っていた。ただ、奥底でそう思うのが反映されるのか子宝には一切恵まれなかった。
「よし、今週の仕事も終わったし。準備するかな」
そして彼は時間が経つにつれ、出世を繰り返し、ますます仕事も忙しくなっていった。次第に彼自身も私への愛が薄れていったのか、何かと朝帰りや泊まり込みも多くなった。そしていつしか長期出張を頻繁に行い始めた。気まずい私との距離を遠ざけるために。つまりほとんど別居状態だ。
しかしそれでも私たちが離婚しないのは、お互いが弱いからだ。離れるのが怖いからだ。現にこんな状況でも夫は浮気の気配も感じさせない。
いや、会わなすぎてそんなことを確認することもないのが原因かもしれないが。
ただ、こんな薄れた関係であっても一週間に一度は連絡を取る。それだけは決めている。そんな小さなくだらない仕事だ。
「服は、これがいいかな。でもどうせね」
仕事を終えた私は上機嫌だ。なぜなら夫とメールで連絡するこのほんの少しの仕事のでさえ苦痛なのだから。
「今日はバラの香水がいいかな?」
さらに仕事の後には会いたい人に会えるから。まるで初めて恋をしたみたいに浮かれている。でもそれはしょうがない。だって私には彼女しかいないから。
「ふふん、似合うかな?」
私は年甲斐もなく化粧に勤しみ、自身をより綺麗に美しく見せようとする。もうすぐ彼女が来る時間だ。少しでも自分を着飾ってより彼女に自分を見てもらいたい。
「ん?」
化粧台で座りながら、髪の手入れを終えたとき、玄関のチャイムが鳴った。私は胸を高鳴らせながら玄関へと急いで向かった。そしてドアを開く。
玄関の向こう、開けた扉の先には茶色で長髪の女性が立っていた。端正な顔立ちで、キリッとした瞳、長いまつげ、柔らかそうな唇。彼女と立ち合うだけで魅力されてしまう。
「おはようございます。由美さん」
そんな彼女がにっこりと私を見て微笑む。しかしその笑顔はどこか少し歪んで見える。私はその姿を見ると、体の奥底から煮えたぎる何かを感じてしまう。
「み、美咲ちゃん。いらっしゃい」
そんな彼女に気圧されそうになりながらもとりあえず家に招き入れて、私は寝室へと向かう。
彼女は青山美咲(あおやまみさき)、大学生だ。私が住んでいるのはいわゆる高級マンションと世間では呼ばれている部屋の一室に住んでいる。彼女はそのお隣に一人暮らしをしているらしい。
隣に住んでいれば、嫌でも何度も顔を会わせてしまう。私たちは次第に仲良くなっていったが、その関係は歪なものへと変化していく。
そしてその彼女と『今日も』家で合う約束をしていているのである。
彼女を連れて寝室に入ると、先に私はベットへと仰向けに静かに寝転がり、頬を赤らめる。そして彼女は怪しく口を歪ました。
「ふふ、由美さんって私と会う前にいっつも化粧もして見繕ってるね。それって私を誘惑してるの?」
「そ、そんなことはないわよ。ただ……」
「ただ何ですか?」
美咲ちゃんもゆっくりとベットへと近づき、そして手を私の頬に当てて撫でてくる。もう一つの手は下半身のある場所へと触れてきた。
「あっ❤」
思わず声が漏れる。この瞬間になると心臓が破裂しそうになるほどドキドキが止まらなくなる。
「由美さん。つい最近知り合ったばかりの私なんかに触られただけでこんなに濡れてる。由美さんって本当にやらしいですね」
「ち、違うから」
「本当にですか? だれでもよかったんじゃないですか? ただ寂しさを埋めるだけなら、誰にでもこうやって誘惑して、気持ちのいいふりして」
「そ、そんなこと……はないけ…ど」
そんなことなんてありえない。現に今の夫のような彼に対してはこんな激しくて熱い感情は一切芽生えなかった。でも寂しさを埋めるというのは合っている。だから彼女の言葉のすべてを否定できない。
でも彼女はそれを分かっていて私に語りかけるのだ。
「なんだか歯切れが悪い返事ですね。そうですか、じゃあいいです。私、この後用事があるので帰りますね」
しかし彼女の言葉をうやむやに否定していると、いやらしく私に触れていた両手をあっさりと引いて、その場から立ち上がろうとする。
「ま、まって」
その行為に恐怖を感じた私は、すぐさま彼女の手を握りしめた。
「由美さん?」
私を見下し、それでいてなにかうれしそうな表情をしている。きっと私が彼女無しではいられない分かっているからだ。
「み、美咲ちゃんだからしたいの。私はあなただからしたいんです」
あぁもうだめだ。私は完全に彼女に溺れてしまっている。
「ふふ、由美さんちょっと意地悪したくらいでこんなに必死になって。本当にかわいい人……」
「うぅ?」
彼女は私の口元にキスをし、そして舌まで入れてきた。思わず、目がとろける。私もそれに答えるように激しく、自ら舌を絡ませにいった。
「うぅん❤️ 由美さん……」
「あぅ❤ 美咲ちゃん……」
ディープキスを交わしながら、互いの名前を呼び、互いの気持ちを表現する。
そう、私は旦那を裏切り、そして女子大生と浮気しているのだった。
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