素直クールな幼馴染はわからない。
梅酒司
素直クールな幼馴染はわからない。
「なあ、英輔」
「どうした」
「ポッキーゲームを知っているか」
帰り道、突然葵がそんなことを聞いてきた。
「まあ、知識程度には」
「そうか。 私は今日初めて知った」
昼休み、葵を含めた数人の女子たちがお菓子を食べていたのを思いだす。
たぶん、そのときだろう。
「一つわからないことがあるんだ」
「なにがだ」
「なぜそんなことをやるのかが私には見当がつかない」
葵は子供の時から真面目だ。
真面目過ぎるのだ。
物事を理論的に考える癖がある。
だから少しだけ世間知らずというか、一般的な感覚を持ち合わせないことがよくある。
そしてそのたびに俺に質問をしてくるというのがいつもの流れだ。
「なぜ一本のお菓子を二人で食べる必要があるんだ」
だが、そんな葵のことが俺は可愛いと思っている。
「一人一本食べればいいと、そう思わないか」
「そうだな。 それは確かにそうかもしれない」
「そうだろう。 あまりにも非効率だ」
食べるということに関して言えば 葵の言っていることは正しくはある。
「食べることが目的ならその通りだな」
「それは……目的が別にあると言っているんだな」
「まあ、そうだな」
「一本のお菓子を二人で食べる別の目的か……」
歩きながら話をしていた葵が歩みを止めその場で考え出す。
「同じものを食べることで、感覚を共有しようとしている」
「感覚の共有といえば近いものではあるな」
「…………うむ」
そのまま無言になる葵。
だが、答えが出る様子はなかった。
「答えは"キス"だ」
「キス?」
「お互いに両端から食べて行けば最後にはぶつかるだろ? そうするとキスができる」
「キスをしたいから一本のお菓子を二人で食べるのか」
「そうだな」
葵の反応からするに、理解できないのだろう。
「したいときにすればいいじゃないか」
そして理解しようと努力をした数秒の後、そんな結論を導き出していた。
「それ、そうなんだがな」
「英輔はどうなんだ?」
「どうって?」
「キスをしたいのか」
「まあ、好きな人としたいよな」
「そうか」
そして、目の前が葵が向きを変え、俺を中心に捉える。
「英輔、少ししゃがんでくれ」
疑問は浮かんでいたが、葵がなにかいたずらをするとは考えられなかった。
だから、俺は言われたとおりに腰を少しだけ屈める。
すると、葵とちょうど同じ目線の高さになる。
「……ちゅ」
――突如。
唇に柔らかい感触。
目の前に葵の顔があった。
それも一瞬。
いまは葵の顔がすこしだけ遠くに行ってしまう。
「――なっ」
「好きな人とキスしたいと言ったからな」
「た、たしかにそうだが」
「英輔の好きな人は私だろ?」
「それは、そうだが」
「なんだ不服か」
「……いや、満足です」
「……ふむ」
俺の顔を見つめる葵。
睨むとは違う表情。
その表情を見つめていると。
なんとなくだが。
葵の頬が普段よりも赤くなっている気がした。
「……ちゅ」
だが、そんな考えは再度唇に当たった柔らかい感触によりかき消されてしまう。
「…………」
「いまのは私がしたくなった」
「したくなったって」
「好きな人とのキスだ」
それだけ言うと葵は背を向け歩きはじめていた。
あっけにとられた意識を慌てて戻す。
歩く葵の隣に駆け足で戻ると。
「やはり、理解できないな。 したいときにキスをしたほうがいいに決まっている」
葵はどこか納得ができない様子だった。
俺はそんな葵の言葉を聞き、今回に限りはこのままでいいかと思ってしまったのだった。
素直クールな幼馴染はわからない。 梅酒司 @1381201
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