第3話:第2章①中学生になっていた
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少年は中学生になっていた。彼は地元の公立中学校にそのまま上がり、野球部にも入らなかった。その坊主一歩手前の短髪は学校指定の黒の学ランを3年間着るために大きめに買ってもらった結果ブカブカとしながら、校舎をブラブラしていた。少年はまた少しずつ背が伸びていく、といっても特別背が高いわけではなく、中1男子の平均くらいだった。野球で鍛えていたこともあって、体は少しだけがっしりしているが、誤差の範囲だった。
そんな少年は、卓球部に入ろうとした。
彼が卓球部に入ろうとしたのには、いくつかの理由があった。その中で特に強くあったのは、あの温泉卓球での衝撃だった。全ての閉塞感を打ち破って彼の脳天に直撃したボールにより、彼の視界に光が開いていた。それで、彼はその道に。
校舎から見てグラウンドを渡った離れたところにある旧校舎に部室があった。ボロボロの塗装が剥げている2階建てで、一階は野球部や陸上部の部室となっていた。
ここの卓球部は、昔は強かったが、今はあまり強くない。昔といっても、本当に昔で、少年の親世代ではなく祖父母世代の話である。その頃は全国大会にも出たことがあったが、今や一回戦負けが当たり前の時代が続いていた。最近は少しだけ強くなったと噂だけは一部で流れているが……
少年が上に上がると、木のトゲが少し出ているボロボロの下駄箱があった。そこで靴を上履きに履き替えて開きっぱなしの扉を入っていくとボロボロの部屋がこじんまりと広がっていた。
その部屋は、入口から入るとすぐ左手の横にカビが生えた水飲み場があり、そこから奥に向かってススがかかった窓が連なっていた。その向こうには小さな部屋に繋がっておる。底から時計回りのところには大きめの部屋につながっており、そこには昔の教室を彷彿させる古ぼけた黒板があった。そこからさらに時計回りに行くともう一つ同じような部屋はあるが、その部屋同士はつながっておらず、そこに行く方法は水飲み場がある部屋から行くしかなかった。
そんな部屋に少年は来た。
すると、ピンポン球が弾く音がして、すでに来ている人達が居た。そこには、白の半袖体操着と着ている二人の男子が卓球台をはさんで立っていた。片方の金髪は青いハーフパンツを履いているので2年生、もう片方の特徴のない人は赤いハーフパンツを履いているので少年と同じ1年生だと少年は理解した。
しかし、少年はその2人の状況は理解できなかった。
先輩が一方的に後輩に向かって強い球を打っていた。それは台を経由して後輩の体にバチバチと当たる。ポイントは先輩に与えられるのだが、どうにも様子がおかしい。一方的な試合というか、一方的すぎるというか、少年が首をひねる状況だった。
「ねぇ」
少年は2人に聞いた。
「なんだ?てめぇ」
先輩はいかつい顔で睨んでいた。
「何してんの?」
少年は涼しい顔で言った。
「何って、試合だよ」
先輩はそう吐き捨てた。
「その割には、試合になったいないけど」
おびえている同級生を見ながら少年は言った。
「なんだよ。せっかく先輩が後輩の相手してやっているのに」
「へっ」
少年は馬鹿にした笑い。
「てめぇ、何だその態度は?」
先輩は少年の胸ぐらを掴んだ。
「いやね、野球してたときも同じような奴がいたんでな」
「なに?」
「どこの世界にも同じような奴がいるんだなぁと思って、ちゃんちゃらおかしく思っただけだ」
「てめぇ、馬鹿にしているのか」
先輩は空いた方の拳を振りかぶったが、その鼻にピンポン玉が当たった。
「先輩、勝負は卓球で決めましょう」
落ちたピンポン玉の音が部屋の中に響いた。
「おー?いいぞ。教育してやりゃあ、この新入りが」
「君、いいの?」
先程まで勝負していた男子が体操着に着替えている少年に聞いた。
「いいの?ってどういうこと?」
体操着に着替えながら少年は返事した。
「だって、あの先輩強いよ。2年生にしてレギュラー候補らしいよ」
「ふーん。そうなんだ」
少年は興味ないふうだった。
「そうなんだ、って、知らないで勝負するの?」
「知らないよ。悪い?」
少年は鋭い目で答えた。
「悪くはないけど」
そう言いながら、試合に向かう少年を男子は見つめた。
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