第5章 君の目に映るモノ(1)
朝目を覚ますと昨日とはうってかわって凛さんが先に支度を済ませていた。昨日のうちに警察の知り合いとは連絡をとったらしい。昨日買ってもらった服に着替えるとトオルの作った朝ごはんをかき込んだ。今日は忙しくなる予感がする。
現場は近くの学校だった。凛さんに連れられ私とトオルは刑事さんにあいさつに向かった。
「渡辺、いるか」
凛さんが呼ぶ。どうやら刑事さんの名前は渡辺というようだ。しばらくして一人の若い刑事が出てきた。
「はいはい。久しぶりだな。おい、現場に子供を連れてくるってのは関心できんぞ」
私たちのことだろう。邪魔になってしまうかもしれない。それでもいかなければならないという思いにかわりはなかった。昨日の夜考えてしまったことがずっと引っかかっている。これは夢なのではないか―。私とトオルを連れてきた事情を凛さんが説明している。果たして刑事さんに許してもらえるだろうか。すると奥から再び渡辺刑事が出てきた。
「まったく、本当は規則違反なんだが、なんとかしたよ。ほら、騒ぎにならないうちにいってこい」
私は凛さんに連れられるまま屋上から下を見下ろした。そこにはペンキで塗ったかのように真っ赤な十字架とそのうえで倒れている少年が見えた。なぜ少年は処理されないのだろう。不思議に思ったが、警察の邪魔をしないようあえて口にはしなかった。
「見ろ、あれが昨日言っていたデッドリークロスだ。おそらく能力を失うほどの力を使ったのだろう」
凛さんが解説する。先ほどから渡辺刑事がいったりきたりしている。凛さんはそれを目で追いながら説明を続けた。
「今回の事件を渡辺から聞く限りでは、浩二という少年がこの階段から事故で突き落とされ死亡。しかし、突き落としてしまった少年をかばうため存在そのものを消した、ということのようだ」
いまいち状況が理解できない。私には普通に人が転落しているだけに見える。まあ研究者や刑事のように見慣れた人間からすれば不自然な点もあるのかもしれないが。ただ、私にでもおかしいとわかることはある。例のデッドリークロスだ。普通に転落しただけならあんな血の広がり方はしない。ましてや血がこんなにも長い間真っ赤であるというのもおかしい。しばらくして渡辺刑事が書類をもって現れた。
「ほら、これが君の見たいと言っていた出席簿だよ」
そう言って凛さんに手渡した。凛さんはそれを受け取ると難しい顔をしてにらみつけている。ふと興味がわき私とトオルも見てみることにした。
「凛さん、ここにその浩二ってのがいるのか?」
トオルの質問に凛さんは首を縦に振った。
「ああ、そのはずだ。だが能力で存在を抹消された以上、見えていても認識はできない」
不思議な能力もあるものだ。
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