第29話 春に触れる

あなたは嬉しそうに

その顔に満面の笑みを浮かべる


周りを見やればほんのりと

淡い紅色に染まる山景色

青空を紗を広げたような雲が走り

春の訪れの足音が聞こえるような

昼下がり


まだ花には早い樹の下

ふたり歩く


花には早い

それでも色づくつぼみ達


あなたが立ち止まり

花が咲くのが楽しみねと

大きく背伸びをして

そっと壊れ物に触れるように

つぼみに手を伸ばす


白い指先を先だけ紅に染まるつぼみに

指をそわせて

そっとそっとそわせて

あなたは春に触れる──

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